スタッドの利点とされているものは、たいていタップ穴の利点

燃料配管の現場にいる人が、配管フランジになぜスタッドを指定するのかと質問して、返ってきた答えは「業界標準だから」だけでした。最も票を集めた回答は利点を四つ挙げ、そのあと自分で追記しています。その四つは当てはまらない、と。同じ勘違いを別の技術者が二人しました。三人とも、一つの単語を別の継手として読んでいたのです。

一つの単語に、二つの問いが入っている

配管の現場が実際に従っている組立指針は ASME PCC-1 ですが、 この文書はスタッドとボルトという分け方をしていません。 附属書 N が定義しているのは頭部が一体のボルト、 つまり片端が固定された頭で反対側がナットかタップ穴のもの、そして 頭部が一体でないボルト、 つまり全ねじでナット二個、またはナット一個とタップ穴で使うものです。

二度読むと形が見えます。独立した問いが二つあります。一体の頭があるか。 反対側はナットか、タップ穴か。是非二つで継手は四通りになり、 「スタッド」という語はそのうち二つをまとめて指しています。 両端にナットを締める全ねじ棒と、植込み側がタップ穴に入ったまま動かないもの。 この二つは挙動が違い、現場で語られる利点のほとんどは後者のものです。

PCC-1 は区別しないだけでは済ませていません。本文一頁目の脚注に、 この文書で bolt という語は bolt、stud、stud bolt、cap screw を すべて含むと明記してあります。スタッドが望ましいという慣行の出どころとされる業界が、 自分たちの指針ではこの名詞に何も背負わせていない。 現場の誰も理由を言えなかったのは、そのためです。

もう一方の軸、めねじが買ってきたナットなのか自社部品に開けた穴なのかという話は、 machine screw or bolt(英語) に書いてあります。この記事が扱うのは頭部のほうです。

なお、反対側がナットであっても、そのナットが板に溶接されているなら話はもう一段変わります。 強度区分の体系がそこで途切れるからです。 溶接ナットに強度区分はありませんを参照してください。

タップ穴が変えるものには、数字がついている

PCC-1 には漏れを繰り返す継手のための附属書があり、そこで片フランジ継手が名指しされています。 片側のフランジにタップ穴を切ってボルトをねじ込む継手は、剛性が高くなるぶん扱いが難しく、 ガスケットの厚さ減少にも熱膨張差にも弱い。ボルトの有効伸び長さが短いからです。 そして附属書はそれを数値にしています。この形式の継手は、 組立後にガスケット厚さが 0.02 mm(0.001 in.)減るごとに、 ボルト軸力の損失がおよそ二倍になります

これは実在する設計上の差で、文書に書かれていて、 そして留め具に頭があるかどうかとは無関係です。フランジが二枚ではなく一枚だから起きます。 短いボルトが長いボルトより悪いばねになる理由は the bolt is a spring(英語)にあります。

数え方も見ておく価値があります。関連する俗説がここで片づくからです。 PCC-1 は通しボルト継手の有効伸び長さを、二つのナットの厚さ中央どうしの距離として取ります。 重六角ナットの厚さは呼び径一つぶんです。 タップ穴に植え込まれた部分については、呼び径の半分を取ります。 つまりどちらの端も呼び径の半分です。 この計算モデルでは、タップ穴とナットは同じ長さを提供しています。 タップ穴だからという理由で差し引かれてはいません。継手が短いのは、中にフランジが一枚しかないからです。

タップ穴の本当の代償は、そのめねじが傷んだときに出ます。 PCC-1 はタップ穴のねじも、ナットのねじと同じ基準で手回しできるか確認するよう求め、 傷んでいる場合は ASME PCC-2 の Article 303 を参照させます。 それは部品交換ではなく補修の手順書です。 「タップ穴がかじったら容器ごと廃却」という現場の言い方の、正確なほうの版がこれにあたります。 戻る道は書かれています。つらい一日ではありますが、廃却ではありません。 傷んだめねじに何が戻せて何が戻せないかは nothing fills a stripped thread(英語)に書きました。

頭を取ると、実際には何が変わるのか

正直に並べると、俗説より短くなります。そしてどの項目も強度ではなく、組立と分解の話です。

  • レンチが一本減るわけではありません。 PCC-1 はバックアップレンチを「回している側の反対にあるナット またはボルト頭を固定する工具」と定義しています。 全ねじ棒に両端ナットでも、頭付きボルトと同じように一本要ります。 この一本が消えるのはタップ穴のほうで、それは別の問いです。
  • 余ったねじ部をどちらの端に出すか選べます。 PCC-1 は、片端はナットを完全にかけて突き出しをなくし、 余りを全部反対側に寄せることを勧めています。突き出した部分は錆と塗料を拾い、 分解を難しくするからです。両端がねじなら、寄せる先を選べます。
  • テンショナーはつかむねじ部を要求します。 油圧テンショナーを使う側は、外側のナット端面からさらに呼び径一つぶん以上、 ねじ部が出ている必要があります。頭のない留め具なら、どちら側にもそれを出せます。
  • あの座金はナット側のために決められています。 PCC-1 の調質座金の仕様には、内径はナットの下で使えるように選んだとあり、 ボルト頭の下で使うと軸部や頭部下の丸みに干渉することがある、と書かれています。 その丸みが細部でない理由は the fillet under the head(英語)にあります。
  • ナット二個は、二回の機会です。 これは条文ではなく現場の経験で、そう書いておくべきものです。 片端がかじっても、反対端には荒れていないねじ山と無事なナットが残ります。 その心配自体には PCC-1 が具体的な手を示していて、SA-193 Gr B7 のかじりは SA-194 Gr 2 や 2H ではなく、強度の高い Gr 4 ナットを使うことで避けられるとしています。 why stainless galls(英語)も合わせてどうぞ。

「スタッドはねじれにくい」という話

これは広く出回っていて、丁寧に答える価値があります。 正しい版が一つあり、よく聞くほうの版は正しくないからです。

PCC-1 は確かに、油圧テンショナーで締めた留め具は寿命が延び、再使用のリスクも下がると書き、 理由も挙げています。ねじれもねじ部のかじりも生じない、 ナットは留め具が無負荷の状態で回し下ろされるから、と。 それは工法の手柄です。 トルクで締めるときに頭のない留め具のほうがねじれが小さい、 と述べた条文を探して全文を通しましたが、見つかりませんでした。 ナットをねじ部の摩擦に逆らって回す以上、その摩擦トルクは留め具が受け持ちます。 反対端に鍛造の頭があるかどうかは関係ありません。

実務的な読み方はこうなります。ねじれが本当に問題なら、 この指針が出している答えは部品の変更ではなく工法の変更です。 かけたトルクがどこへ行くのかは torque and clamp force(英語)、 その数値が摩擦について黙って置いている前提は a torque spec assumes a friction condition(英語)にあります。

もう一つのスタッド:両端は同じねじではない

この語を聞いて多くの人が思い浮かべるのは、植込み側がタップ穴に入ったまま動かないほうでしょう。 シリンダーヘッドのスタッドが身近な例です。 この部品は両端で長さだけが違うのではなく、違いの中身まで規格に書かれています。

日本の規格から見ていきます。JIS B 1173 植込みボルトは植込み側のねじ部長さ bm で 1 種、2 種、3 種を分け、寸法表の注記でそれぞれ 1.25 d、1.5 d、2 d に等しいかこれに近い値としています。相手材も同じ注記に書かれていますが、書き方が独特です。 1 種と 2 種はどちらも鋼(鋳鋼品と鍛鋼品を含む)または鋳鉄に植え込むもので、 3 種が軽合金用。相手材の欄を持っている規格が、 鋼なら 1.25 d か 1.5 d かを教えてくれません。

これは書き落としではありません。はめあい長さは相手材の名前ではなく、 二つのねじの強さの関係で決まるからです。その考え方は thread engagement(英語)に、 公開されている各種のはめあい規則がなぜ互いに食い違うのかは the engagement rules disagree(英語)にあります。

他の国の規格も同じ表を書いていて、三つとも違います。

規格植込み側の長さ相手材の記載
JIS B 1173約 1.25 d、1.5 d、2 dあり。ただし一対一ではない
IS 1862(インド)1 d、1.5 d、2 dあり。一対一で鋼、鋳鉄、アルミ合金
DIN 938/939/835/940約 1 d、1.25 d、2 d、2.5 dなし。表題は長さだけで終わる

インドの規格はもう一つ書き足しています。植込み側のねじ寸法は IS 2186、つまりしまりばめ用のおねじに従うこと。 相手材に入る側は単に長いのではなく、はめあいが違う。 ナットを外してもスタッドが残るのはそのためです。

横に読むと、鋳鉄の行は誰のカタログが開いているかで 1.25 d と 1.5 d を行き来します。 図面に「スタッド M12」とだけ書いてあるとき、 それはこれらのうちどれをつくればいいかを供給側に伝えていません。

答えの出る形に質問を分ける

もとの投稿は 125 件の返信がついて、結論には至りませんでした。 「スタッドかボルトか」が、一つの名前を共有した二つの問いだからです。分ければ両方に答えがあります。

  • 反対側はナットか、タップ穴か。 継手の剛性、ガスケットの緩みへの耐性、そしてねじが傷んだときに何が起きるかが決まります。 設計の中身はこちらの問いに入っています。
  • 一体の頭があるか。 組み方と外し方、余ったねじ部をどちらに寄せるか、テンショナーが入るか、 どの座金なら仕様どおりか。こちらは段取りの問いです。

返ってきた答えがまだ「業界標準だから」なら、 次に聞くのはその四文字が二つの問いのどちらを指しているか、です。 その言葉が指している指針の中では、この名詞は四通りすべてを含んでいます。

この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。

よくある質問

同じ強度区分、同じ呼び径なら、スタッドのほうが強いのですか。

ASME PCC-1 にそのような記述はなく、ボルト軸力と伸びの計算でも両者を区別していません。有効伸び長さのモデルはナットとタップ穴を同じ呼び径の半分として扱い、強度は材料規格が決めるもので、頭が鍛造されているかどうかとは関係しません。頭部の据込みで鍛流線が乱れて割れの起点になる、という説明は現場でよく聞きますが、一般的な優劣として使える条文も公表された試験も見つかりませんでした。置き換えの根拠にはできません。

作業者が片方のナットにしかトルクレンチを当てていません。間違いですか。

間違いではありません。片方を回し、もう片方を固定する。それが PCC-1 のいうバックアップレンチ、つまり回している側の反対にあるナットまたはボルト頭を固定する工具です。頭付きボルトでも同じで、固定される対象が頭になるだけです。大事なのは反対側が供回りしないことで、トルクレンチをどちら側に当てるかではありません。

片フランジ継手が漏れやすいのはなぜですか。

PCC-1 は有効伸び長さが短いことを理由に挙げています。片側のフランジにタップ穴を切ってボルトをねじ込む継手は剛性が高く、同じだけガスケット厚さが減っても解放される軸力が大きくなります。附属書は組立後に厚さが 0.02 mm 減るごとに軸力損失がおよそ二倍としたうえで、問題になる場合は延長カラーと長いボルトでボルト側の柔らかさを増やすことを勧めています。

スタッドにすれば締付け時のねじれを避けられますか。

それだけでは避けられません。PCC-1 はねじれが生じないことを油圧テンショナー、つまりナットを無負荷で回し下ろす工法に帰していて、留め具に頭がないことには帰していません。トルクレンチで締める限り、ねじ部の摩擦トルクはどちらの形式でも留め具が受け持ちます。

図面に「スタッド M12×60」としか書かれていません。これで発注できますか。

植込み側がタップ穴に入るなら足りません。植込み側の長さは別の決定事項です。JIS B 1173 は 1 種、2 種、3 種を約 1.25 d、1.5 d、2 d とし、1 種と 2 種はどちらも鋼または鋳鉄用、3 種を軽合金用としています。IS 1862 は鋼 1 d、鋳鉄 1.5 d、アルミ合金 2 d の一対一で、さらに植込み側をしまりばめのおねじに指定します。DIN の系列は 1 d、1.25 d、2 d、2.5 d を四つの別々の規格として持ち、表題に相手材を書きません。規格番号と相手材を書くか、どちらの端がどこに入るかを明記してください。

参考資料

JIS B 1173 は日本規格協会から購入した正本ではなく、規格本文を公開しているミラーで読みました。引用したのは寸法表の注記 3 で、原文は 1.25 d・1.5 d・2 d に「等しいかこれに近い」であり、ちょうどその値とは書かれていません。PCC-1 は 2019 年版を読んでいます。現行の購入版は後の版なので、作業手順書に書き写す前に条番号を確認してください。完全なねじ込み長さについて PCC-1 の脚注が指している ASME BPVC 第 VIII 巻第 1 部 UG-13 と ASME B31.3 の 335.2.3 は、本稿では直接読んでいません。DIN の植込み側長さは規格の表題そのものから取っています。長さと相手材の対応は IS 1862 と JIS B 1173 に書かれているもので、DIN の表題にはないため、三つを混ぜて引用しないでください。「ナット二個は二回の機会」は現場の経験で、本稿が読んだどの文書の条文でもありません。内部リンクの多くはまだ英語版のみです。

お問い合わせ

お問い合わせに「スタッド」とだけ書かれている場合は、どちらの端がどこに入るかをお知らせください。 両端にナットを締める全ねじ棒と、植込み側がタップ穴に入るスタッドは、 ねじの指定そのものが違う別の部品です。 後者は相手材が分からないと、植込み側の長さを決められません。

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