全ねじボルト 3 分 1 本で天井スラブから何 kg 吊れるか:引張で先に抜けるのはインサート周りのコンクリートコーン

天井スラブから 3 分(W3/8)の全ねじボルトを 1 本吊り下げたら、何 kg まで抜けないのか。2026 年の日本建築学会構造系論文集に載った実験は、設計基準強度 21 N/mm² のコンクリートに建築設備用インサートを 5 種類埋め込み、下向きに引っ張っています。最大引張耐力は 10.7〜23.4 kN(本サイト換算で約 1,090〜2,390 kgf)で、引張試験では 1 体を除き、壊れたのはインサートの周りのコンクリートが円錐状に抜け出すコーン状破壊でした。埋込長さの短い合板型枠用は最も高いものの半分ほどで、デッキの谷部形状をコンクリートで再現した試験体ではさらに下がります。読了まで約 9 分。

下から斜めに見たコンクリートスラブ。インサートが円錐状のコンクリート片ごと全ねじボルトでスラブ下面から引き出され、下面の円形のひび割れが赤で描かれている(模式図)。

寄せられた質問

2021 年 5 月、Yahoo!知恵袋の DIY カテゴリに、全ねじボルト 3 分を天井スラブから吊り下げた場合に 「一本のボルトで何キロまで耐えて」抜けないのか、という質問が投稿されました。閲覧数は 8,856 です。

回答は 3 件で、定着部が何 kg まで持つかの数値はどれも示していません。アンカーやインサートの物次第という回答、3/8 のボルトの引張強度は 2 トン近くあるのでボトルネックはアンカー部分だろうという回答、 インサートか後施工アンカーか、コンクリート強度やアンカーの種類で違うのでは、と問い返す回答です。

3 件とも定着部に目を向けていますが、質問者が知りたかった数値は出てきませんでした。「2 トン近く」は回答者の説明で、本サイトでは確認していません。 ボルト自体の強度区分の見方は 全ねじボルト(寸切りボルト)の見方にまとめています。 このページでは残りの半分、つまりコンクリート打設前にスラブへ埋め込んでおく建築設備用インサートについて、実験で測られた数値と、先に壊れる場所を整理します。 後施工アンカーは別の製品群で、評価書上の値は あと施工アンカーは何 kg まで吊れるかで扱っています。

実験の条件

論文は東京科学大学の平野一郎・吉敷祥一両氏によるもので、2026 年 4 月の日本建築学会構造系論文集に掲載されました。 序論によれば、空調機器をはじめとする吊り軽量機器の地震被害は構造躯体への接合部に集中する傾向があり、吊り材の破断や躯体からの抜け落ちが確認されています。 日本建築センターの指針は吊り材の接合に原則としてインサートを推奨していますが、これまでの研究は引張力への抵抗を扱ったものが多く、引張とせん断の組合せ荷重下の検討は十分ではありませんでした。

試験に用いた W3/8 用インサート 5 種類(平野・吉敷,2026,Fig.2)
記号用途・形式埋込長さ L頭径 B有効ねじ長さ S
TC-13合板型枠用(樹脂被覆)30.5 mm32 mm13 mm
SHF-13デッキプレート用・埋込型42.5 mm22 mm13 mm
SHF-25デッキプレート用・埋込型42.5 mm22 mm25 mm
SH-13デッキプレート用・突出型(突出 25 mm)42.5 mm22 mm13 mm
SH-25デッキプレート用・突出型(突出 25 mm)42.5 mm22 mm25 mm

埋込型は地震時のせん断力への対策として開発されたもので、吊り材をスラブの内部まで挿入できます。突出型は吊り材をスラブの外側で挿入します。 合板型枠用は埋込長さが最も短く、頭径が最も大きい形です。吊り材には SS400 相当の全ねじボルトを使い、インサートのねじ部先端までねじ込んでいます。

コンクリートの設計基準強度は 21 N/mm²、試験期間中の圧縮強度の平均は 23.3 N/mm²、試験体は計 64 体です。 デッキの山谷はコンクリートの形状で再現しており、実際のデッキプレートは使っていません。著者らは、実際にデッキプレートがあれば応力の分散が期待できるため、この条件は安全側の結果を与えると述べています。

引張:抜け出すのは円錐状のコンクリート

フラットなコンクリートでの最大耐力(kN;平野・吉敷,2026,Fig.8)
記号引張(単調)せん断(繰り返し・包絡線)
TC-1310.710.1
SHF-1321.611.5
SHF-2523.413.9
SH-1316.56.0
SH-2518.05.0

表の値は Fig.8 の各グラフに記された最大値です。図の上部に 5 つの欄があり、それぞれインサートの名称と断面図が描かれていて、その下のグラフが欄ごとに並んでいます。本サイトはこの配置で対応づけました。 本文に書かれた順序と比率(合板型枠用が最も低い、埋込型が突出型より高い、有効ねじ長さが長いほうがわずかに高い)とも一致します。

引張について本文が挙げる傾向は三つです。埋込長さの短い TC-13 は、同じ有効ねじ長さの SHF-13 の50% 程度以下でした。 デッキプレート用どうしでは埋込型が突出型より高く、同じ有効ねじ長さなら突出型は埋込型の 80% 程度です。同じ種類では、有効ねじ長さ 25 mm のほうが 13 mm よりわずかに高くなりました。

破壊性状は、後で触れる 1 体を除いてすべてコーン状破壊でした。インサートの頭部が、周りのコンクリートを円錐状に伴って抜け出す壊れ方です。 質問者が心配した「抜ける」は実際に起きる壊れ方ですが、抜けてくるのはインサート単体ではなく、その周りのコンクリートの塊ということになります。

コンクリート板の断面。頂部に円盤状の頭をもつインサートが板に埋め込まれ、下からねじ込んだボルトを矢印で下へ引いている。赤いひび割れ線がインサート頭部から板下面へ斜めに走り、板の下に引き出されたコンクリート片がある。右側の小図 2 つ:本体が板の中にあるインサートと、本体が板下面から突き出たインサート、それぞれにボルト。
引張時のコーン状破壊:インサートが周りのコンクリートを円錐状に伴って抜け出す。右側:ねじ部がコンクリート内にある埋込型と、本体がスラブ下面から突き出た突出型。模式図・縮尺不同。

ねじの位置で引張耐力が変わる理由について、著者らは次のように説明しています。全ねじボルトの引張力が雌ねじを介してインサートに伝わるとき、偏心曲げによる変形が生じます。 埋込型ではねじ先端がコンクリートの内部にあるため、この変形が周辺コンクリートに拘束され、引張荷重の一部がインサート表面の摩擦力として伝わります。 突出型ではねじ先端がコンクリートの外にあり、拘束が弱くなります。最大引張耐力は、コンクリート界面からねじ部先端までの距離とほぼ比例関係にありました。

論文は日本建築学会「各種合成構造設計指針・同解説」のコーン状破壊耐力式 Tcone=0.31√σB×Ac と比べています。Ac はコーン状破壊面の有効水平投影面積で、フラットの場合は Ac=πL(L+B)です。 本サイトで試験条件を代入すると、デッキプレート用 4 種類で約 12.9 kN、TC-13 で約 9.0 kN になります(本サイト計算)。 5 種類とも実験値はこれを上回っており、論文も、摩擦の寄与が小さいと考えられる SH-13 でも安全側に評価できていると述べています。 式は圧縮強度の平方根を含むので、コンクリートが弱いほどコーン状破壊耐力の計算値は下がります。

デッキ合成スラブ:谷部では耐力が下がる

デッキプレートを用いた天井スラブの下面には山部と谷部ができます。論文の定義では、下に突き出たコンクリートのリブの底面が「谷部」、へこんだ側の面が「山部」です。 SHF-13 を使い、谷部 −30°・−45°・−60°・−90°、山部 +30°・+45°・+60°・+90° の 8 種類のデッキ角度を用意しています。 デッキ平行部の片側の端あき距離は 40 mm に揃え、両側とも 40 mm の「対称」と、片側が広い「非対称」に分けています。

谷部の最大引張耐力(kN,SHF-13,繰り返し載荷;平野・吉敷,2026,Fig.9)
デッキ角度対称非対称
フラット 0°20.3
−30°20.122.3
−45°16.821.4
−60°15.817.8
−90°10.817.0

谷部ではデッキ角度が小さくなる(傾斜が急になる)ほど最大引張耐力が下がり、両側の端あきが小さい対称のほうが非対称より低い傾向でした。 最も低い −90° 対称は 10.8 kN で、同じ図のフラットの約 53% です(本サイト計算)。この試験体ではインサートから端あき方向へ向かう割裂ひび割れが確認され、実験値は計算値を下回りました。 著者らの説明では、コーン状破壊面がデッキ傾斜部で切り欠かれて有効水平投影面積が小さくなるためで、計算値もこの低下傾向を捉えています。

並んだ 2 つのスラブ断面。下に台形のデッキプレート。左:下に突き出た幅の狭いコンクリートリブの底面にインサートがあり、赤い破線が頭部から下へ斜めに広がってリブの傾斜面を突き抜ける。右:幅の広いコンクリート底面にインサートがあり、緑の斜線が頭部から下へ広がりコンクリート内に収まる。両方のボルトに下向きの矢印。
左:下に突き出たリブの底面(論文の谷部)では、コーン状破壊面がデッキ傾斜部で切り欠かれ、リブの外にはみ出す部分を赤い破線で示している。有効水平投影面積が小さくなる。右は比較用:インサートのあるコンクリート面が十分に広ければ、コーンはデッキで切り欠かれない。右図は論文の山部の実際の形状ではない(山部は論文 Fig.3 を参照)。模式図・縮尺不同。

山部はフラットより高い場合が多いものの(図中 20.1〜28.8 kN)、ばらつきが大きく、デッキ角度との相関はみられません。+30° 対称の 1 体はインサート自体が破断しており、これが先に述べたコーン状破壊でなかった唯一の例です。 著者らはまとめで、フラットと同等以上の耐力を期待するには山部にインサートを設置すべきだとしています。序論でも、強度確保の観点から山部への設置が原則とされていることに触れています。

地震時:引張とせん断の組合せ

吊り軽量機器には、地震時に自重に加えて水平力と軸力変動が生じます。フラットでのせん断載荷では突出型が最も低く、埋込型と合板型枠用の 36〜60% 程度でした。 せん断では大部分の試験体でインサートの曲げによる破断が起き、一部では全ねじボルトが破断しています。破断位置は、埋込型と合板型枠用ではねじ部先端付近、突出型ではコンクリート界面付近です。

組合せ載荷では、最大引張耐力の 20%・40%・70%・85% の引張力を保持したまま、せん断力を繰り返し与えています。 埋込型は引張力が高いほど最大せん断耐力が下がり、低下は最大 60% 程度でした。合板型枠用と突出型は影響が小さく、最大でも 23% 程度の低下にとどまっています。 著者らは、本実験の条件では、組合せ荷重下の許容耐力は主として危険断面の M-N 相関曲線で評価でき(弾性限・最大せん断耐力の計算値は実験と概ね対応)、引張力の上限はコーン状破壊で制限されると結論づけています。

使う側から見ると、埋込型では自重で使う引張力が大きいほど、地震時の水平力に回せるせん断耐力が小さくなる、ということです(本サイトの解釈)。 振れ止めの力が各吊りボルトにどう配分されるかは論文の範囲外なので、設計で別途検討が必要です。

現場での確認順

1. 定着部の種類を確かめる。 回答にあった「インサートか後施工アンカーか」が出発点です。本ページの数値は打設前に埋め込む建築設備用インサートに限られます。 後施工アンカーは製品の評価書を見てください(本サイトの推奨)。施工品質の影響は 接着系アンカーの切粉を清掃しないと試験で引張耐力は平均約 4 割低下で扱っています。

2. インサートの種類を見る。 同じ W3/8 でも、埋込長さ 30.5 mm の合板型枠用は、42.5 mm のデッキプレート用埋込型の半分ほどの最大引張耐力でした。 突出型は引張で 8 割程度、せん断は埋込型の半分前後なので、水平力が大きくかかる箇所ではこの差を見込みます。

3. デッキ合成スラブでは山部に付いているか確認する。 谷部の引張耐力は傾斜が急になるほど下がり、実験ではフラットの半分程度まで低下しました。図面で判断できない場合は、インサートが下に突き出たリブの底面にあるのか、へこんだ面にあるのかを現場で確かめます。

4. 最大耐力は吊ってよい重さではない。 10.7〜23.4 kN は試験体が壊れたときの値で、圧縮強度 23.3 N/mm² のコンクリートでの結果です。本サイトとしては、設計ではメーカーのカタログや基準の許容値を用い、地震時の水平力と軸力変動を考慮することを勧めます。 この論文は、そのまま使える許容荷重や安全率を示していません。なお、論文序論によれば、空気調和・衛生工学会の「建築設備の耐震設計・施工法」は 1 kN 以下の吊り軽量機器に対する落下・横振れ防止対策を示しています。

5. ボルト自体は別に確認する。 実験の吊り材は SS400 相当の全ねじボルトで、せん断試験の一部ではボルトが先に破断しています。強度区分の確認は 全ねじボルト(寸切りボルト)の見方を、塩素のある屋内プールなどでの材質選定(本サイトの推奨)は 屋内プールの上では A4 でも足りないを参照してください。

このページから言えないこと

この論文が示すのは最大耐力で、許容荷重ではありません。10.7〜23.4 kN をそのまま「何 kg 吊れるか」の答えにすることはできません。 数値は設計基準強度 21 N/mm² のコンクリートと W3/8 用の特定の 5 種類のインサートによるもので、各条件の試験体は 1 体です(Table2 の計 64 体を本サイトで数えた結果)。他社品、他の呼び径、他の強度のコンクリートは試験されていません。 デッキの山谷はコンクリート形状での再現で、実際のデッキプレートは使っていません。山谷形状の試験は SHF-13 のみで、形状を変えたせん断試験は谷部の溝直交方向だけ、山部のせん断は対象外です。 引張とせん断の組合せ載荷はフラットでのみ行われています。谷部 −60° から −90° までのせん断耐力の低下傾向は、著者らも今後の課題としています。 本サイトがコーン状破壊耐力式に代入した 12.9 kN・9.0 kN は比較のための計算値で、設計値ではありません。吊りボルトより先の吊り金具、防振ハンガー、振れ止めの強度もこの実験の範囲外です。

この記事は手順 1、相手材を扱います。全体の順序は相手材、ねじ、頭部、駆動部、表面処理、書類で、これを崩すと微調整ではなく手直しになる理由はねじの決め方にあります。

よくある質問

全ねじボルト 3 分(W3/8)1 本で天井スラブから何 kg 吊れますか?

ボルトと定着部の両方を確認します。この実験の引張試験では、先に壊れたのは定着部周りのコンクリートでした。平野・吉敷(2026)の実験では、設計基準強度 21 N/mm² のコンクリートに埋め込んだ W3/8 用建築設備用インサート 5 種類の最大引張耐力が 10.7〜23.4 kN(本サイト換算で約 1,090〜2,390 kgf)でした。これは壊れたときの値で、吊ってよい重さではありません。設計にはメーカーや基準の許容値を使うことを本サイトとしては勧めます。

インサートが引張で壊れるとき、どこが壊れますか?

1 体を除き、インサートの周りのコンクリートが円錐状に抜け出すコーン状破壊でした。例外はデッキ山部 +30° 対称の 1 体で、インサート自体が破断しています。せん断ではインサートの曲げ破断が大部分でした。

デッキ合成スラブのインサートは山部と谷部のどちらに付けるべきですか?

山部です。谷部の最大引張耐力はデッキ角度が小さくなるほど下がり、−90° 対称では 10.8 kN とフラットの半分程度でした。山部はフラットより高い場合が多く、著者らは山部への設置を求めています。

埋込型と突出型のインサートの違いは何ですか?

ねじ部がコンクリートの中にあるかどうかです。埋込型はねじ先端がコンクリート内部にあり、偏心曲げの変形が拘束されるため最大引張耐力が高くなります。同じ有効ねじ長さでは突出型は埋込型の 80% 程度、せん断は埋込型と合板型枠用の 36〜60% 程度でした。

参考資料

Fig.8・Fig.9 の数値は図中の最大値ラベルです。PDF のテキスト層ではラベルが図から分離しているため、ページを画像化して目視で確認しました。Fig.8 は図上部の 5 つの欄のインサート名で各グラフに対応づけ、Fig.9 は本文が定める色(橙=対称、青=非対称)で読み分けています。kN から kgf への換算(×101.97)とコーン状破壊耐力式への代入値は本サイトの計算です。

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W3/8 の全ねじボルト、吊り用のナットや座金が必要な場合は、材質と強度区分、長さ、表面処理、数量をお知らせください。インサートやアンカーの選定は設計者の指定仕様に従ってください。

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