接着系アンカーの切粉を清掃しないと引張耐力は平均約 4 割低下:削孔径が大きすぎても充填された樹脂カプセル型は耐え、金属拡張型 M16 は 64 kN から 15 kN に
穿孔後の切粉をどこまで取り除くべきか。土木研究所が 2016 年に報告した試験では、接着系あと施工アンカーを切粉が孔内に完全に残った状態で施工すると、引張耐力の平均値は適切に清掃した場合より約 40% 低下し、母材コンクリートと接着剤の界面での付着破壊が増えました。セメント系注入式接着剤、M16、埋込み長さ 80 mm の条件です。国土技術政策総合研究所の共同研究報告書は、削孔径大や充填不足といった施工不具合を一つずつ引張試験しています。各 1 体の供試体で、接着剤が充填された樹脂カプセル M16 は削孔径大でも低下せず、金属スリーブ M16・M24 は大きく低下しました。読了まで約 8 分。
知恵袋での質問
2018 年 1 月、Yahoo!知恵袋に、ケミカルアンカー(接着)の下穴清掃についての質問が投稿されました。 スポイトのような道具で粉を取り除き、ブラシでこすってからもう一度粉を取っているが、 「少しでも粉が残っていたらまずいですか」という内容です。穴は 12 mm、三分の全ねじを 90 mm 差し込んでいます。
ベストアンサーは 1 件で、削りかすや粉の塊が穴の底に残ると接着力は低下する、エアーコンプレッサーで吹き飛ばすのが一番よいが、 質問者の下処理でも十分な密着強度は出る、というものでした。数値は示されていません。
粉が残るとどれだけ違うのかを知るには、同じアンカーを清掃ありと清掃なしで施工し、引張試験で比べたデータが必要です。 以下の 2 つの公的機関の資料が、それぞれその一部を扱っています。
土木研究所:清掃不良で平均約 40% 低下
川上明大・中村英佑・古賀裕久「載荷方法と施工条件が接着系あと施工アンカーの引張耐力に及ぼす影響」(土木技術資料 58 巻 5 号、2016 年)は、 土木研究所先端材料資源研究センターでの試験報告です。ひび割れ箇所への施工、清掃不良での施工、水浸し状態での施工の 3 つの不具合を模擬し、標準施工と比べています。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 母材 | 呼び強度 21 の普通コンクリート |
| 接着剤 | 市販の超速硬セメント系注入式(樹脂系ではない) |
| アンカーボルト | SNB7 M16 寸切り全ねじボルト |
| 穿孔径・埋込み長さ | 穿孔径 20 mm(施工マニュアルの推奨値)、ハンマードリル。埋込み長さ 80 mm(5d) |
| 標準の清掃 | 穿孔作業時にブラシと集塵機で切粉を除去 |
| 試験方法 | 拘束引張試験。支点間隔は穿孔径の約 1.5〜2 倍。破壊状況はアンカーボルトの降伏・破断または接着剤の付着破壊となり、付着力の評価に適した方法 |
「清掃不良での施工」は、穿孔で生じた切粉が孔内に完全に残った状態で施工したケースです。
| 不具合 | 引張耐力の平均値 | 破壊状況の変化 |
|---|---|---|
| 清掃不良(切粉が完全に残存) | 清掃ありに比べ約 40% 低下 | 母材コンクリート/接着剤界面の付着破壊部が増加 |
| ひび割れ箇所(平均ひび割れ幅 0.05〜0.125 mm) | ひび割れなしに比べ約 20% 低下 | 同界面の付着破壊部が増加。低下量が大きいほど明確 |
| 水浸し(清掃後に孔内を水で充填) | 若干低下。上の 2 つより小さい | 同界面の付着破壊部が増えることがあった |
著者らは、孔内に残った切粉が母材コンクリートと接着剤の界面の付着を阻害し、引張荷重が伝達されなかったと考察しています。 増えた破壊面がアンカーボルト側ではなくコンクリート側の界面だったことも、この説明と整合します。 報告はこの結果から、接着系あと施工アンカーでは孔内の清掃が重要だと、強調した表現で結論づけています。
ひび割れの結果も見逃せません。補修の要否判定の目安とされる 0.2 mm 以下のひび割れでも、平均値は約 2 割低下しました。この約 2 割もセメント系、M16、埋込み長さ 80 mm、拘束引張試験での結果で、0.2 mm は補修判定の目安であって安全の境界ではありません。 水浸しの影響は最も小さく、残った水によって接着剤に脆弱層が生じたと推測されています。
注意点として、この試験の接着剤はセメント系です。知恵袋の質問者は接着剤の種類を書いておらず、国総研の供試体は樹脂系なので、両者をそのまま並べることはできません。 著者らも、接着剤の種類、アンカーボルトの種類、埋込み長さ、コンクリート強度によっては異なる傾向になり得ると明記しています。
国総研の報告書:削孔径大で結果が正反対
2 つ目は国総研資料第 884 号(2017 年 3 月)です。国土技術政策総合研究所と民間各社による共同研究報告書で、学術誌の論文ではありません。 主題は非破壊検査であと施工アンカーの不具合を見つけられるかで、第 6 章では不具合模擬供試体を引張試験し、不具合ごとの耐力を確認しています(M24 はジャッキ能力の制約から 100 kN で載荷終了)。 アンカー鋼材は SS400、M16 の降伏荷重は 36.8 kN です。
清掃の比較はありませんが、削孔径大と樹脂の充填不足が含まれています。以下は表-6.1.4 から M16 と M24 を抜き出したものです。
| アンカーと不具合 | 引張耐力 | 破壊形態 |
|---|---|---|
| 樹脂カプセル M16、健全(φ19) | 84 kN | 鋼材降伏 |
| 樹脂カプセル M16、削孔径大 φ19→φ26 | 87 kN | 鋼材破断 |
| 金属スリーブ M16、健全(φ22.5) | 64 kN | コーン破壊 |
| 金属スリーブ M16、削孔径大 φ22.5→φ26.5 | 15 kN | 付着破壊 |
| 金属スリーブ M24、健全(φ33.0) | 101 kN(100 kN で載荷終了) | 鋼材降伏 |
| 金属スリーブ M24、削孔径大 φ33.0→φ38.0 | 4 kN | 付着破壊 |
樹脂カプセル型は削孔径が 7 mm 大きくても鋼材破断まで達しました。報告書は、接着剤が削孔長全体に充填され、せん断抵抗面積が確保されたためと考えられるとしています。1 体、1 製品、充填された状態での結果で、注入式や他の製品、他の拡径量には広げられません。 87 kN と 84 kN の差は、孔が大きいほうが強いという意味ではありません。どちらも鋼材が先に降伏・破断しており、測れているのはボルトの強さです。
金属拡張アンカーは拡張部を開いて孔壁に機械的に固着させる方式なので、孔が大きいと固着の機能が十分に発揮されないと報告書は考察しています。M16 は健全の 4 分の 1 以下、M24 は 4 kN で付着破壊でした。
| 樹脂充填率 | カプセル、下向き、口元空洞 | 注入、下向き、口元空洞 | 注入、上向き模擬、先端空洞 |
|---|---|---|---|
| 100%(健全) | 84 kN | 79 kN | 上向きの健全供試体なし(下向き健全は 79 kN、参考) |
| 75% | 80 kN | 78 kN | 78 kN |
| 50% | 51 kN(付着破壊) | 79 kN | 79 kN |
| 25% | 30 kN(付着破壊) | 57 kN(付着破壊) | 24 kN(付着+コーン破壊) |
充填率 25% では 3 条件すべてで低下し、先端空洞が最も低い値でした。報告書は、深い位置ほど付着抵抗が大きいため、先端が空洞だと低下が大きくなると説明しています。 報告書は先端空洞で上向き施工を模擬しています。
「付着不良」として孔壁に障子紙を貼り、付着がほとんど期待できない状態を模擬した樹脂注入 M16 は 6 kN でした。孔壁にセメントペーストを塗った条件は低下せず、 報告書はペーストが薄く縁切れが不十分だったためと判断しており、模擬が成立していません。残った切粉がこの両極端のどこに入るかは、この報告書からは分かりません。
表では各条件に番号が 1 つずつで、1 体ずつの試験と読めます。ばらつきは評価できません。報告書 6.1.4 節も、不具合の内容と引張耐力の関係は複雑で、低下の度合いに規則性は確認されなかったとしています。
施工後の非破壊検査では多くを正しく判定できない
同じ報告書の非破壊検査の結果は厳しいものでした。8 つの検査技術で、不具合を正しく検知できた「正解」は全体の約 20%、内容が一致しない「難あり」を含めても約 60% です。 鋼材降伏荷重を下回る不具合をすべて検知できた技術はなく、充填不足(大)の先端空洞は見逃しが最も多かった 2 項目の一つで、半数以上の技術が検知できませんでした。
この供試体群に「清掃不良」は含まれておらず、清掃不良を施工後に見つけられるかはこの報告書からは分かりません。言えるのは、報告書が検証した 8 技術では充填不足のような不具合を施工後に見つけにくいということです。施工管理と事後検査の確実さを比べた試験はありませんが、事後に見つけにくい以上、施工時に要領書どおり行うのが現実的というのが当サイトの考えです。
現場での確認手順
以下は 2 つの資料の結果をもとに当サイトが整理した手順です。孔径の確認、注入方法、現場引張試験といった手順は 2 つの研究が定めたり検証したりしたものではなく、アンカーメーカーの施工要領、認定文書、設計条件に従ってください。当サイトは特定メーカーの要領書を確認していないため、清掃回数は示しません。
- アンカーの種類を確認する。 接着系(カプセル、注入)は孔壁との付着で耐えるため、切粉と空洞が問題になります。金属拡張アンカーは孔壁への固着で耐えるため、削孔径大が問題になります。
- ドリルビット径は要領書どおり。金属拡張アンカーは特に。 国総研の金属スリーブ M16 は、孔径を φ22.5 から φ26.5 にすると 64 kN から 15 kN になりました。穿孔後に孔径ゲージで確認することを当サイトは勧めます。
- 接着系は要領書の手順で清掃する。 土木研究所の標準施工はブラシと集塵機でした。知恵袋の質問者の手順も方向は同じです。少量の粉が残った場合の影響は、どちらの資料でも試験されていません。
- 孔が大きくなった接着系は樹脂量を確認する。 国総研の削孔径大のカプセル型が耐えたのは、接着剤が全長に充填されていたためと報告書は推測しています。孔の容積が増えると同じカプセルでは充填しきれず、充填不足の表に当てはまる可能性があります。これは当サイトの推論で、報告書は充填された状態のみ試験しています。
- 注入式は孔底から充填する。上向き施工は特に注意。 先端空洞では充填率 25% で 24 kN でした。当サイトの勧めとして、ノズルを孔底まで入れ、引き抜きながら注入し、口元から樹脂があふれることを確認します。
- ひび割れを避け、孔内の水は要領書どおりに処理する。 0.2 mm 以下のひび割れでも約 2 割低下しました。水浸しの影響は小さかったものの、セメント系接着剤での結果です。樹脂系が湿潤孔に使えるかは製品の説明を確認してください。
- 重要なアンカーは現場で引張確認試験を行う。 付着を確認するなら、川上ほかが用いた支点を孔に近づける拘束引張試験。コーン破壊を含む全体の耐力を見るなら、著者らは支点間隔を埋込み長さの 4 倍以上とすることが望ましいとしています。
アンカー 1 本の許容引張が埋込み深さやひび割れでどう変わるかはあと施工アンカーは何 kg まで吊れるか、 組積造用の注入アンカーの評価方法は組積造用ケミカルアンカーの数値の出どころで扱っています。 前者で読んだ ETA-05/0069 の施工説明にも、孔の清掃が含まれています。
このページから言えないこと
「約 40%」は切粉をまったく清掃しない場合と要領書どおりに清掃した場合の差で、セメント系注入式接着剤、M16、埋込み長さ 80 mm での結果です。 知恵袋の質問、つまり清掃したが少し粉が残った場合にどれだけ下がるかには、どちらの資料も答えていません。樹脂系接着剤にそのまま当てはめることもできません。 国総研の数値は各条件 1 体と読め、平均値や設計値、他製品で許容できる拡径量や現場での合否基準として使えるものではありません。 M24 健全の値は表で 101 kN、試験方法では 100 kN で載荷終了とあり、報告書自体が一致していません。同報告書の M18 のデータは本文と表の番号が一致しないため引用していません。 非破壊検査の約 20%・約 60% は報告書の 8 技術と模擬供試体に限った結果で、清掃不良は含まれていません。 川上ほかは引張のみを評価しており、せん断、持続荷重、繰返し荷重は今後の課題と結語に書いています。 何回吹いて何回ブラシをかければ十分かという基準も、2 つの資料にはありません。
この記事は手順 1、相手材を扱います。全体の順序は相手材、ねじ、頭部、駆動部、表面処理、書類で、これを崩すと微調整ではなく手直しになる理由はねじの決め方にあります。
よくある質問
接着系アンカーの孔清掃をしないと、強度はどれくらい下がりますか?
土木研究所の川上ほか(2016)の試験では、切粉が孔内に完全に残った状態で施工すると、引張耐力の平均値は適切に清掃した場合より約 40% 低下し、母材コンクリートと接着剤の界面での付着破壊が増えました。セメント系注入式接着剤、M16、埋込み長さ 80 mm の条件です。
清掃したが少し粉が残っている場合は問題ですか?
この 2 つの資料には、少量の粉が残った場合の試験はありません。比べられているのは清掃なしと要領書どおりの清掃です。接着剤の施工要領書の手順と回数で清掃するのが、現時点でできることです。
削孔径が大きくなってしまったアンカーは使えますか?
アンカーの種類によります。国総研資料第 884 号では、樹脂カプセル M16 は φ19 から φ26 に拡径しても接着剤が充填されていれば鋼材破断まで耐えました。金属スリーブ M16 は φ22.5 から φ26.5 で 64 kN から 15 kN に低下しています。どちらも各 1 体の結果で、報告書は許容できる拡径量を示していません。金属拡張アンカーの孔が大きくなった場合は、メーカーの施工要領で判断し、そのまま取り付けないことを当サイトは勧めます。
上向きで接着系アンカーを施工するときの注意点は?
国総研は先端空洞で上向き施工を模擬していますが、上向き施工で先端空洞ができる頻度は測っていません。その試験では、注入式 M16 の充填率 25% で、先端空洞は 24 kN、口元空洞は 57 kN でした。ノズルを孔底まで入れて充填し、口元から樹脂があふれることを確認するのが当サイトの勧めです。報告書が定めた手順ではないので、施工要領に従ってください。
参考資料
- 川上明大・中村英佑・古賀裕久(2016)— 載荷方法と施工条件が接着系あと施工アンカーの引張耐力に及ぼす影響、土木技術資料 58(5):12–15(PDF)
- 国土技術政策総合研究所 ほか(2017)— 国総研資料第 884 号 道路橋等の点検効率化等への計測・非破壊検査技術の適用性検証に関する共同研究(Ⅱ)、共同研究報告書
- 同 第 6 章 あと施工アンカーの不具合と引張耐力の関係性の検証(PDF)
- Yahoo!知恵袋(2018-01-14)— ケミカルアンカー(接着)の下穴の掃除で質問です
- あと施工アンカーは何 kg まで吊れるか:同じ M10 で許容引張は 4.1〜9.5 kN
- 組積造用ケミカルアンカーの数値は、そのれんがでの五回の引抜きから求める
2 つの資料は当サイトで本文を読んでいます(国総研は第 6 章と表紙)。「約 40%」「約 20%」は川上ほか 3.2〜3.3 節の記述どおりです。国総研の kN 値は表-6.1.4 を行ごとに照合しました。国総研の本文は樹脂注入 M18 の充填不足を No.24〜26 としていますが、表-6.1.4 では M18 は No.27〜30 であり一致しないため、表と図-6.1.19 の凡例が一致する M16 のデータのみ引用しています。
お問い合わせ
あと施工アンカー用の全ねじボルト、ナット、座金が必要な場合は、呼び径、長さ、材質または強度区分と、使用するアンカーの種類をお知らせください。その条件でご案内します。
お見積り依頼
品名と数量をお知らせください。可否、納期、価格をご返信します。
直接メールでも承ります sales@tigerfasteners.com