ボルトは折れなくても、抜ければ結合は失われる:エメリー 17 便の右昇降舵コントロールタブは、定格せん断荷重 7,300 ポンドの 5/16 インチボルト 1 本でプッシュロッドにつながり、NTSB は破断の証拠を見つけなかった
重要なボルトが事故を起こすかどうかを考えるとき、多くの人がまず思い浮かべるのは強さです。径は足りるか、強度区分は十分か、せん断は計算したか。ところが 2000 年 2 月 16 日に墜落したエメリー・ワールドワイド航空 17 便で問題になったのは、定格せん断荷重 7,300 ポンド(約 32.5 kN、当サイト換算)の 5/16 インチボルトで、米国家運輸安全委員会(NTSB)はそれが破断した証拠を一つも見つけていません。ボルトは継手から抜け出しており、残骸からはボルトもナットも見つかりませんでした。この記事では NTSB の報告書 AAR-03/02 を、締結部品の固定の問題として読みます。このボルトが何をつないでいたのか、抜けただけでなぜタブが動けなくなり、昇降舵を機首上げ側へ押し続けたのか、溝付きナットと割りピンはそれぞれ何を止めていたのか、マニュアルと作業カードに何が書かれ何が抜けていたのか、検査はなぜ見逃したのか、そして設計基準は「一つの結合が外れること」をどう扱い、事故後に何が変わったのかを順に見ていきます。読了まで約 13 分です。
離陸で、機首がひとりでに上がった
まず、このボルトが登場するところまで事故をたどります。NTSB の報告書によると、2000 年 2 月 16 日の午後 7 時 49 分ごろ(太平洋標準時)、エメリー・ワールドワイド航空 17 便のマクドネル・ダグラス DC-8-71F 貨物機(N8079U)が、 カリフォルニア州ランチョ・コルドバのサクラメント・メイザー空港からオハイオ州デイトンへ向けて離陸しました。離陸から約 2 分後、緊急着陸のために引き返そうとしていた機体は、滑走路の東約 1 マイル(約 1.6 km)の自動車解体場に墜落し、乗員 3 人全員が死亡しました。
フライトデータレコーダー(FDR)に残っていたのは、つじつまの合わない組み合わせでした。ローテーションの前、操縦桿は前に押されていたのに、昇降舵は後縁上げ(trailing edge up、TEU)、つまり機首を上げる側にありました。 離陸初期にはピッチ角が増加し、乗員がトリムを機首下げいっぱいまで使っても、強い機首上げ作用を打ち消せませんでした。離陸滑走中の 80 ノットでの昇降舵チェックでは、昇降舵は約 5.4° TEU から 2.2° TEU までしか動いていません。前の区間でリノを離陸したときは、同じチェックで昇降舵は後縁下げ 7.8° まで動いていました。
報告書の推定原因は 2 文だけです。ピッチ方向の操縦能力の喪失は右昇降舵コントロールタブ(control tab)が外れたことによるもので、外れた原因はその結合ボルトを適切に固定し検査しなかったこと(the failure to properly secure and inspect the attachment bolt)だ、というものです。 この 2 文を読むには、まずこのボルトが DC-8 の昇降舵系統で何をつないでいたかを知る必要があります。
1 本のボルトが、1 枚のタブをつないでいた
DC-8 の昇降舵は「タブ駆動」(tab-driven)です。報告書の 1.6.2 節によると、操縦桿はケーブルとリンクで昇降舵後縁の内側にある小さなコントロールタブに機械的につながっており、飛行中はタブの偏位で生じる空気力が昇降舵全体を反対向きに動かします。 操縦桿を前に押すとタブは後縁上げに振れ、昇降舵は後縁下げに押されて機首が下がります。逆にタブが後縁下げ(TED)に振れると、昇降舵は後縁上げに押されて機首が上がります。
タブの内側の縁にはアルミ製のクランク金具(crank fitting)があり、平行な 2 枚のラグの間にプッシュロッド(pushrod)後端のロッドエンド軸受が挟まれ、1 本のボルトがラグとロッドエンドを横に貫いて両者をつないでいます。 報告書の注 61 と DC-8 のオーバーホールマニュアルによると、この位置の金物は 4 点です。5/16 インチ(約 7.94 mm)の、割りピンを通す横穴付き合金鋼ボルト(drilled-shank bolt)、座金 1 枚、鋼製の溝付きナット(castellated nut、キャッスルナット)、そして割りピン(cotter pin)です。 報告書は、ボルトの定格せん断荷重を 7,300 ポンド、正しく取り付けたときのこの金物一式の引張荷重に対する耐力を 3,250 ポンド(約 14.5 kN、当サイト換算)と書いています。
残骸の証拠はこの継手を指していました。右タブのクランク金具は構造的には保たれており、昇降舵の内側ヒンジ金具に付いたままでした。右プッシュロッドは別の場所で見つかり、後端のロッドエンドは破断していませんでした。ロッドエンド軸受の内面とラグのブッシュには「目に見える損傷も変形もなく」、ボルトと金物はなくなっていて、最後まで見つかりませんでした。 左側との対比ははっきりしています。左プッシュロッドの後端は破断し、約 4 分の 3 が軸受ごと失われていました。NTSB はこれを、左側のボルトが衝突時まで付いていたことと整合すると見ています。右側の穴にはボルトに押されてできる痕がなく、衝突の時点でそのボルトはもうなかったことになります。
定格 7,300 ポンドのボルトが、なぜ折れる必要がなかったのでしょうか。定格せん断荷重が受け持つのは横方向の荷重で、軸方向の保持ではないからです。仮の数字で比べてみます。プッシュロッドからボルトにかかるせん断力を 500 ポンドと仮定すると(これは仮定の値で、報告書は実際の荷重を示していません)、引用した定格せん断荷重の約 7% です。これは数値の比較にすぎず、事故時の荷重でも、事故時の強度余裕を示すものでもありません。 しかしせん断力はボルトを横から押す力で、ボルトを軸方向に穴へ押し戻すことはしません。ボルトを穴にとどめているのはナットで、ナットをボルトにとどめているのは割りピンです。強さの余裕がいくら大きくても、軸方向の保持にはなりません。 これはせん断を受けるボルトについての当サイトの一般的な説明で、このボルトが軸方向に抜けていった実際の仕組みや速さを、報告書は特定していません。
ボルトが抜けた後、プッシュロッドはラグの前に引っかかった
ボルトが 1 本なくなれば、タブは操縦から切り離されて風に揺れるだけのように思えます。ではなぜ右コントロールタブは後縁上げ方向の動きを制限され、強い機首上げ作用を生じ続けたのでしょうか。NTSB は同型のエメリーの DC-8-71F で地上試験を行っており(1.16.1.1 節)、答えはプッシュロッドの行き先にありました。
試験では、右タブのプッシュロッド後端のボルトを外しました。追加の手動操作を加えなくても、タブは自分で 29° TED まで振れ、プッシュロッドの後端はクランク金具から外れて少し内側へずれ、内側ラグの前縁にちょうど向き合う位置に来ました。 そこでタブを後縁上げ側に持ち上げると(離陸滑走中の空気力を模したもの)、クランク金具のラグがロッドエンドに当たり、それ以上は上がりません。昇降舵を後縁上げの限界まで動かしたとき、左タブは 8.5° TEU まで振れたのに、右タブは 15.9° TED で止まりました。 左右のタブの差は平均 25°で、後縁ではおよそ 8 インチ(約 20 cm)の段差になります。事故機の右クランク金具のラグ前縁には、繰り返し接触した引っかき傷とくぼみがありました。
これを飛行中に置き換えると、報告書が描く連鎖になります。右タブが大きく後縁下げの位置で止まり、その空気力が 2 枚の昇降舵をそろって後縁上げに押します。乗員が操縦桿をさらに前に押しても、左タブはすでに行程の端に当たっており、それ以上押してもケーブルが伸びるだけで、機首下げはもう増えません。 報告書の所見 7 は、パイロットが操縦桿に大きな機首下げの力をかけたにもかかわらず、動きを制限された右タブの影響に打ち勝てなかったと書いています。
ボルトはいつ抜けたのか。FDR に手がかりがありました。リノからの離陸では昇降舵は操縦桿どおりに動いており、NTSB はこのときボルトはまだ付いていた可能性が高いと見ています。しかしメイザーに着陸する約 8 分 20 秒前から、操縦桿と昇降舵の対応が 1° から 2° ずれ、着陸まで続いていました。 NTSB の性能解析では、この変化は右タブが後縁上げ側に 3° から 4° ずれたとすれば説明でき、地上試験でもちょうどこの角度が再現されました。ボルトがなくなっても、プッシュロッドが 2 枚のラグの間に残っている間は、タブは 3° から 4° だけ余分に回り、それ以上はロッドエンドの肩に止められます。 NTSB はこれをもとに、ボルトがメイザー着陸前に外れていたと仮定すれば、着陸で減速して空気力が小さくなったときにタブが後縁下げに振れ、プッシュロッドがラグから外れた可能性が高いと分析しています。所見 5 が書いているのは、ボルトが前の区間の離陸後、事故機の離陸滑走前に抜けたというところまでです。80 ノットのチェックの時点について、報告書は「ボルトは間違いなく抜けていた」(certainly migrated free)と書いています。
溝付きナットと割りピンは、それぞれ何を止めているのか
ボルトの話に戻ります。報告書の 2.3 節は推論をはっきり書いています。ボルトが壊れたり破断したりしたことを示す物理的な損傷やほかの証拠はなく、取り付けられた溝付きナットや割りピン(またはその両方)が通常の運用で壊れることは「非常に考えにくい」。 したがってボルトが外れたのは適切に固定されていなかったからで、溝付きナットが一度も取り付けられなかったか、取り付け方が不適切だったか(報告書が挙げる例は割りピンがないこと)のどちらかだ、というものです。実際にどの状態だったのかを報告書は特定しておらず、判断もできていません。
この 2 つの小さな部品の役割分担は明快です。溝付きナットの頂部には溝が並び、ボルトの軸には横穴があります。ナットを所定の位置まで締め、溝を穴に合わせたら、割りピンを溝と穴に通します。報告書が書く正しい方法は、割りピンの一方の脚を上へ曲げてナットの頂部とボルトの端にかぶせ、もう一方の脚を下へ曲げてボルトと平行にするもので、 「この取り付け方法によって、運用中にナットが緩むのを防ぐ」とあります。ナットはボルトが軸方向に抜けるのを止め、割りピンはナットが回って緩むのを止めます。割りピンがなければ、ナットに残るのは締めたときの摩擦だけです。 溝を穴に合わせる工程そのものについては、当サイトの溝付きナットは、穴が許す場所にしか止まりませんと穴のことは全部書いてあるが、どこにあるかだけ書いていないで取り上げています。
つまりこの継手の「強さ」には 2 つの層があります。横方向のせん断は 7,300 ポンドのボルトが受け持ち、軸方向の保持はナット 1 個と細い割りピン 1 本が受け持ちます。前者は強さの問題で、後者は部品がそろっているか、正しく取り付けられているかに加え、どれだけ保持できるかの問題です(報告書が示す金物一式の引張荷重に対する耐力 3,250 ポンドはこちらの層に属します)。 エメリー 17 便に欠けていたのは後者でした。ボルトは折れなくても、抜ければ結合は失われます。だから次の節で見るのは材料ではなく文書です。その割りピンは、組み立てる人の目に入る場所に書かれていたのでしょうか。
マニュアルが参照する部品図には 3 点があり、4 点目がなかった
この機体で、記録に残る最後のこのボルトに触れる整備は、1999 年 8 月 27 日から 11 月 17 日までの D 整備(エメリーの整備プログラムで 12 年ごとの重整備)で、整備会社 Tennessee Technical Services(TTS)が行いました。 エメリーの指示で既存の昇降舵とタブはオーバーホール済みの組立品に交換されました。オーバーホール品は金物なしで届いたため、TTS は自社在庫の金物を使い、エメリーが渡した作業カードと DC-8 整備マニュアル(MM)第 27 章に従って取り付けました(1.6.3.1 節)。
マニュアルのこの部分の記述は短いものでした。MM 27-32-06 のこの継手についての指示は「タブのプッシュロッドをタブのクランクに接続し、固定する」(connect tab pushrod to the tab crank and secure)だけで、必要な金物も検査の手順も書かれていませんでした。ダグラスの原本のマニュアルも同じでした。 マニュアルの図の索引は図解部品カタログ(IPC)の図を指し、その図がさらに別の IPC の図を指していました。その図はドリルドシャンク合金鋼ボルト、座金、溝付きナットを部品番号で挙げていましたが、割りピンは挙げていませんでした。 4 点すべてを挙げていたのは DC-8 のオーバーホールマニュアル(OHM)27-16-1 でした。エメリーは OHM を TTS に提供していましたが(1.17.2.1 節)、昇降舵の取り付けについて作業カードも整備マニュアルも OHM を参照していませんでした。ボーイングの取付図面は、エメリーの整備プログラムの参照文書に入っておらず、TTS も受け取っていないと述べています。
これが原因だったのでしょうか。報告書はそう認定していません。NTSB は、マニュアルや IPC が割りピンに触れていない、または描いていないことがこの事故の要因だったとする証拠を認めていません(記載不足が事故と無関係だと証明されたという意味ではありません)。その資料は長年使われてきて、緩み止め処置が不適切なボルトが外れた例はほかに知られていませんでした。 TTS の担当者も NTSB に、この結合にはドリルドシャンクボルト、溝付きナット、割りピンを使うことを知っていたと話しています。報告書はこの件を別の次元に置きました。取り付けの際に古い、不完全な、あるいは不適切な参照資料を整備士が使うことは起こりうることで、潜在的に危険な慣行だ、というものです(所見 19)。
事故後の修正も文書に向かいました。2002 年 5 月 8 日、ボーイングは DC-8 MM の臨時改訂(27-207、27-208、27-561、27-562)を出し、プッシュロッドの接続にはボルト、座金、ナットを付けて締め、割りピンで固定することを明記し、金物の図を添えました。米国の主要な DC-8 運航者 5 社は、報告書の時点でいずれもこれを採用していました。 IPC は改訂されませんでした。IPC は組み立てに使うものではなく、組み立ては取付図面を見るべきだというのがボーイングの理由です。そこで NTSB は FAA に対し、運航者に二つのうちどちらかを求めるよう勧告しました。最新の取付図面を整備士に配り、それに従って組み立てさせるか、IPC を運航仕様に載せて更新を続け、その使用を求めるかです(A-03-32)。
検査の印は押されていたが、調整はその後にあった
部品図に割りピンがなかったことが要因と認定されていないなら、検査はなぜ止められなかったのでしょうか。作業カードには必要な署名と印がそろっていました。タブを取り付ける作業カード 3502D の最後の工程「検査員がコントロールタブとギアードタブの取り付けと固定を確認する」には、2 人の検査員の印がありました。 昇降舵組立を取り付ける作業カード 3504D は 12 工程で、11 番目が検査員による組立の取り付けと固定の確認、12 番目がマニュアルに従ったリギング(昇降舵とタブのリンクと行程の調整)で、この工程にも整備士の署名と検査員の印がありました。 TTS の検査員の一人は NTSB に、フェアリングを閉じる前にこの継手は少なくとも 3、4 回は検査されるはずで、自分は割りピンに手で触れて正しく付いていることを確かめてからでないと印を押さないと話しています。これは通常の作業方法についての証言で、聞き取りを受けた整備士と検査員は、事故機で自分が行った具体的な作業を覚えていませんでした。
NTSB が指摘したのは順番です。検査員が「取り付けと固定」を確認した後に、カードにはまだリギングの工程がありました。マニュアルはリギング後にリンクが「確実に固定され、緩み止めが施されている」ことを点検するよう書いていましたが、作業カードには、リギング完了後に検査員が結合をもう一度確かめる独立した工程がありませんでした。 そのため、取り付け時の検査で固定され署名されたボルトが、リギングの後に固定し直されず、再検査もされないまま運用に戻ることが理屈のうえではありえた、というのが 2.6.1 節の指摘です。NTSB は、作業カードにこうした記載がなかったことが本件のボルトの固定不良に直接関係したかどうかは特定していません。 リギングで後端のボルトを外すかどうかは、報告書によると決まっていません。プッシュロッドの長さは前端で調整するので、経験のある整備士なら後端の金物を外さずに済ませられます。カードには工程ごとの担当者の記録もなく、1999 年 9 月 27 日から 11 月 2 日の間に 19 人の整備士と検査員が 3504D の作業に携わっていました。
D 整備の後にも、この継手に触れた可能性のある整備が少なくとも 2 回ありました(関係者の意見書はほかの整備にも触れています)。完了から 8 日後、着陸の引き起こしでいつもより強く操縦桿を引く必要があったとパイロットが報告し、エメリーの整備士が左右の昇降舵ダンパーの取り違えを見つけて入れ替え、作動点検は良好で、その後同じ苦情の記録はありませんでした。リード整備士はタブのプッシュロッドのフェアリングは開けていないと述べています。 2000 年 1 月の B-2 点検の作業カードは、昇降舵とタブの「取り付け状態」(security of attachment)を目視で確認するよう求めていましたが、この継手はタブ内側のフェアリングに覆われていて、外さなければ見えません。エメリーとボーイングは B 点検ではフェアリングを外さないとし、TTS の証言は外す必要があるとしていました。NTSB がほかの運航者を調べた結果も、解釈はばらばらでした。
そのため所見 8 は、ボルトは直近の D 整備かその後の整備で適切に固定・検査されなかったが、それがいつだったかは判断できない、というところまでしか書いていません。報告書の 1.18.2 節にまとめられた関係者の意見書は、いつ誰が起こしたかについて互いに食い違っており、このページはどの立場もとりません。 当サイトが読んだアラスカ航空 1282 便と比べると違いがわかります。あちらはボルトが取り外し記録なしに外され、書類上にその作業が存在しませんでした。こちらは書類上に作業も検査印もあり、調査が別に指摘したリスクは、1 枚のカードが「固定」と「その後の調整」を一つの署名の順番の中に置いていたことでした。NTSB はこれが本件に直接関係したとは判断していません。
一つの結合が外れると操縦できなくなる:設計基準は何を求めていたか
整備で止められなかったとして、設計にはなぜ逃げ道がなかったのでしょうか。DC-8 は 1959 年に民間航空規則 CAR Part 4b で型式証明を受けています。報告書が引く CAR 4b.320 は、タブ操縦系統はどの要素が外れたり壊れたりしても飛行の安全を損なわないようにしなければならない、と定めていました (Tab control systems shall be such that disconnection or failure of any element…cannot jeopardize the safety of flight)。 ボーイングは意見書で、開発と型式証明の際に製造者と FAA はクランク金具とプッシュロッドの結合が外れることを検討したが、タブが後縁下げに振れてロッドエンドがラグの間から抜け出すのは「予想されておらず、この事故以前に経験されたこともない」形態だったと述べています。
報告書の 1.18.1 節が引用する 14 CFR 25.607 はもっと直接的です。この規定は、取り外し可能なボルト、ねじ、ナット、ピンなどの締結部品は、それを失うとピッチ、ヨー、ロールの操縦能力が下がるおそれがある場合、二つの独立したロック装置を備えなければならないと定めています。 報告書の注 86 は、25.607 は DC-8 の当初の型式証明には適用されなかったと書いています。報告書が引用する前身の CAR 4b.303「標準締結」の条文は、運用中に回転するボルトにセルフロッキングナットを使ってはならない、というものでした。この規則の引き金が「壊れること」ではなく「失われること」である理由は、当サイトの壊れることではなく、失われることで条文を読んでいます。
NTSB の所見 13 は、この事故の状況は、現行の DC-8 の設計がコントロールタブのクランク金具とプッシュロッドの結合が外れたり壊れたりしたときの壊滅的な結果を排除できないことを示している、としています。所見 14 は、DC-8 以外にも CAR 4b で型式証明を受けた機体で、重要な操縦系統の結合が外れると壊滅的な結果になりうるものがあるかもしれない、としています。 対応する勧告は、ボーイングに DC-8 のタブの取り付けを再設計させ、運航者がタブとプッシュロッドが外れても安全に操縦できるよう改修すること(A-03-26)、そして CAR 4b のほかの機種を評価し、必要なら再設計と改修、または二重ロック装置の追加を求めること(A-03-27)です。
ボーイングも自社の設計を見直しました。DC-8 の昇降舵、補助翼、方向舵の操縦系統にあるほかの 180 か所を超える結合点を調べ、溝付きナットと割りピンが外れた場合、ほとんどは「軽微か、機能低下なし」という結論でした。 同じタブ駆動の DC-9、MD-80/90、717 も評価し、その調査範囲で、結合部の離脱による操縦不能の懸念があるタブ面は DC-8 の昇降舵コントロールタブだけだとしています(報告書 2.5 節。707 の評価は報告書の時点で継続中でした)。ボーイングはさらに、ボルトが抜けてもプッシュロッドがクランクの前に落ちないようにする強化型プッシュロッドを開発し、報告書の時点で試作品を作って DC-8 での地上試験を予定していました。
事故後の機材点検と、NTSB の整備に関する勧告
事故から約 1 年後の 2001 年 3 月 16 日、エメリーは機材点検指示 FCD A27-8 を出し、当時の DC-8 29 機すべてで、タブのプッシュロッドがボルト、座金、ナット、割りピンで正しく取り付けられているかを確認させました。3 月 22 日の第 1 次改訂はボルトの部品番号と図を正し、部品リストを加え、期限を 4 月 12 日としました。 結果は、全機の全プッシュロッドの前後両端に金物と割りピンが付いていた、というものです(事故機も当時そうだったと逆算できるわけではありません)。ボルトの差し込む向きは機体ごとに、同じ機体の左右でさえばらばらでしたが、製造者は正しく取り付けて固定されていれば向きは重要でないとしています。プッシュロッド 1 本は取り付けが誤っており、3 本は摩耗や損傷の疑いで交換されました(1.17.1.4 節)。TTS の品質保証責任者も 2001 年 10 月 24 日に覚書を出し、検査員に対して、すべての DC-8 が出場する前に左右のタブ内側フェアリングを外し、プッシュロッドとクランクの結合に機番に応じた正しい金物が付いて緩み止めが施されていること、ボルトの頭が内側を向いていること(OHM 27-16-1 の図による)を確認し、不具合は出場前に記録して直すよう求めました(1.17.2.2 節)。
整備文書についての NTSB の勧告は 3 つあります。すべての DC-8 運航者に作業カードを新設または改訂させ、コントロールタブ結合部の固定確認を含む昇降舵組立のリギング後検査を明記させること(A-03-29。所見 16 は、リギングの手順を独立した作業カードにまとめるべきだとしています)。DC-8 の重要な操縦系統に関わる作業カードで、適切な検査項目を独立した工程とし、それぞれに検査署名を求めること(A-03-30)。 そして Part 121 のすべての運航者が、整備作業を完了するための手順を作業カードに明示すること(A-03-31)です。ジョン・J・ゴグリア委員の声明はもっと率直で、これは「明らかに整備の事故」であり、マニュアルの正確さ、作業カードの質と詳しさの不足が問題で、しかもこうした欠陥は珍しいものではないと書いています。
締結部品の側から持ち帰れる 4 つのこと
以下は当サイトの読み方で、報告書が一般の締結部品の利用者に向けて書いた勧告ではありません。報告書の正式な安全勧告はすべて FAA に宛てられています。
- せん断を受けるボルトを穴にとどめるのは、強さではありません。このボルトの定格せん断荷重は 7,300 ポンドで、報告書は破断の証拠を見つけていません。継手にとどめていたのはナットと割りピンです。せん断を受ける継手を評価するときは、荷重に対する耐力と脱落防止措置を別々に確認し、脱落防止部品の有無だけでなく、正しい取り付けと保持能力も見る必要があります。
- 部品リストは、ロックを担う部品まで載せる。マニュアルが参照する部品図はボルト、座金、ナットを挙げ、ナットの緩みを実際に止める割りピンを欠いていました。NTSB はこれを本件の要因とは認めていませんが、他人に組み立ててもらうためのリストで最も明記すべきなのは、いちばん小さく、当たり前と思われやすい部品であることが多いのです。
- 検査は最後に手を入れた後に置く。3504D の「取り付けと固定」の確認はリギングの前にあり、リギングの工程にも検査員の印はあったものの、リギング後に結合部の固定を改めて確かめる独立した工程はカードにありませんでした。「固定を確認」という署名は、署名した時点の状態にしか成り立ちません。
- まず、この結合が外れたらどうなるかを問う。ボーイングが調べたほかの 180 か所を超える結合点の多くは、外れても影響は軽微でした。その調査範囲では、DC-8 の昇降舵コントロールタブのこの結合が、外れると操縦不能につながるものでした。25.607 の二重ロックも、ボーイングの強化型プッシュロッドも、「壊れるか」ではなく「外れたらどうなるか」から設計を逆算しています。
冒頭の直感に戻ります。重要なボルトについて、人はまず強さを問います。エメリー 17 便のあのボルトは、定格せん断荷重がいくら大きくても、継手にとどめておく固定の代わりにはなりませんでした。
このページが言えないこと
報告書はこのボルトの部品番号、長さ、グリップ長を示しておらず、ラグやロッドエンドの寸法、プッシュロッドの実際の荷重も示していません。500 ポンドのせん断力は仕組みを説明するための仮定の値です。ボルトが軸方向に抜けていった仕組みや速さを報告書は特定しておらず、FDR、残骸、試験にもとづいて抜けた時期の範囲を示し、外れた後のタブの動きを推定しているだけで、このページもそれ以上は推定しません。 溝付きナットが一度も付けられなかったのか、取り付けが不適切(たとえば割りピンなし)だったのか、それがどの整備で起きたのかを NTSB は判断できておらず、このページも判断しません。報告書は個人や会社の過失を判定せず、このページは報告書の安全分析を伝えるもので、誰の責任も判定しません。 報告書はこのほか、昇降舵位置指示器(EPI)の位置と校正、飛行前点検、FDR のデータ、貨物担当者の薬物検査などを詳しく扱っていますが、締結部品と関係のない部分は簡単に触れるだけにしています。インチ、ポンドとメートル法の換算は当サイトの計算で、引用のページ番号は報告書の印刷ページ番号です。
この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。
よくある質問
エメリー 17 便はなぜピッチ方向の操縦能力を失ったのですか?
NTSB の報告書 AAR-03/02 は、右昇降舵コントロールタブのプッシュロッドとクランク金具をつなぐボルトが継手から抜け、タブが後縁下げに振れ、ロッドエンドがクランク金具のラグの前に落ちてタブが戻れなくなったと認定しています。タブの空気力が 2 枚の昇降舵を後縁上げに押し続けたため、機体には強い機首上げの作用がかかり続け、乗員が操縦桿を前に押しても打ち消せませんでした。推定原因はタブが外れたことで、外れた原因はそのボルトを適切に固定し検査しなかったことです。
そのボルトは折れたのですか?
報告書は、ボルトが壊れたり破断したりしたことを示す物理的な損傷やほかの証拠はないと書いています。ボルト自体は回収されていません。クランク金具のラグのブッシュとプッシュロッドのロッドエンド軸受の内面には目に見える損傷も変形もなく、ボルトとナットは見つかりませんでした。NTSB は、ボルトが適切に固定されていなかった、つまり溝付きナットが一度も付けられなかったか取り付けが不適切(たとえば割りピンなし)だったために、継手から抜け出したと判断しています。ボルトの定格せん断荷重は 7,300 ポンドでした。
マニュアルに割りピンが書かれていなかったことが原因ですか?
NTSB は、それが要因だったとする証拠はないとしています。ただし、無関係だと証明されたわけではありません。整備マニュアルが参照する部品図はボルト、座金、溝付きナットを部品番号で挙げ、割りピンを挙げていませんでしたが、整備会社に提供されていたオーバーホールマニュアルには 4 点すべてが載っていました。その資料は長年使われ、緩み止め処置が不適切なボルトが外れた例はほかに知られておらず、整備会社の担当者も割りピンが必要なことを知っていました。報告書はこれを別のリスク、つまり古いか不完全な参照資料で組み立てることは起こりうる潜在的に危険な慣行だとして扱い、ボーイングは事故後に整備マニュアルを改訂しました。
輸送カテゴリーの飛行機の規則では何が違いますか?
報告書が引用する 14 CFR 25.607 は、取り外し可能な締結部品を失うとピッチ、ヨー、ロールの操縦能力が下がるおそれがある場合、二つの独立したロック装置を備えることを求めています。報告書は、この規定が CAR 4b による DC-8 の当初の型式証明には適用されなかったと指摘し、NTSB は DC-8 のタブの取り付けの再設計と改修、CAR 4b のほかの機種の評価、必要に応じた再設計と改修または二重ロック装置の追加を勧告しました。
参考資料
- National Transportation Safety Board(2003)Aircraft Accident Report NTSB/AAR-03/02: Loss of Pitch Control on Takeoff, Emery Worldwide Airlines, Flight 17, McDonnell Douglas DC-8-71F, N8079U, Rancho Cordova, California, February 16, 2000
- 壊れることではなく、失われること
- 溝付きナットは、穴が許す場所にしか止まりません
- 穴のことは全部書いてあるが、どこにあるかだけ書いていない
- 外した 4 本のボルトが戻らなかったのに、ドアプラグはなぜ累計 154 サイクルまで外れなかったのか:アラスカ航空 1282 便、始まりは起票されなかった取り外し記録
- ロックワイヤはトルクを保つためのものではない
事故の経過と数字は、NTSB 報告書の要約、1.1、1.6、1.6.2、1.6.3.1、1.6.3.1.2、1.6.3.2、1.12.1.1(注 61 を含む)、1.16.1.1、1.16.2、1.17.1.4、1.18.1(注 86 を含む)、1.18.2、2.2.1、2.3、2.5、2.6.1〜2.6.3 節、所見 5〜8、13、14、16〜19、推定原因、勧告 A-03-26、27、29〜32、ゴグリア委員の声明によります。ページ番号は報告書の印刷ページ番号です。インチ、ポンドとメートル法の換算は当サイトの計算、500 ポンドのせん断力は仮定の値、「締結部品の側から持ち帰れる 4 つのこと」は当サイトの読み方で、報告書の勧告ではありません。
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お見積りの際、そのねじやボルトが継手で主にせん断を受ける場合や、割りピン、ロックワイヤなどの緩み止め・脱落防止部品と組み合わせる場合は、穴あけ、ナット、緩み止めの方法を図面や仕様に併記してください。図面と仕様にもとづいてお見積りします。緩み止め・脱落防止部品の選定と組み立て後の検査手順は、設計と品質保証を担当する部門でお決めください。
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