スプリングピンにはせん断荷重の規定があり、平行ピンにはありません
高さ調整式のバスケットゴールを直したあと、どうしても腑に落ちない、という投稿がありました。ボード全体が直径 5 mm ほどのスプリングピン一本で吊られているように見える。なぜせん断しないのか。232 点を集めた回答は、まず自由体図でリンク比を出せと勧め、それから数字を挙げました。5 mm の硬化鋼平行ピンの二面せん断はおよそ 32 kN、と。この一文では二つのものが入れ替わっていて、どちらも効いてきます。
規格が実際に公表している数字
スリット付きスプリングピン、つまり側面に合わせ目のある中空のピンは、 重荷重形が ISO 8752 の対象です。その寸法表には、 ほとんど誰も見ない列が一つあります。 呼び径 1 から 50 mm まで、各サイズの最小二面せん断強さ、単位 kN。 試験方法は別の規格、ISO 8749 にあります。
| 呼び径 d1 | 最小二面せん断 | 呼び径 d1 | 最小二面せん断 |
|---|---|---|---|
| 2 mm | 2.82 kN | 8 mm | 42.76 kN |
| 3 mm | 6.32 kN | 10 mm | 70.16 kN |
| 4 mm | 11.24 kN | 12 mm | 104.1 kN |
| 5 mm | 17.54 kN | 16 mm | 171 kN |
| 6 mm | 26.04 kN | 20 mm | 280.6 kN |
つまり質問のピンについて公表されている最小値は 17.54 kN であって、32 ではありません。 調べて出てきた数字は、ゴールに実際に入っていた部品の規格値のおよそ 1.8 倍です。二倍近い差は、 余裕が十分ある話と、議論になる話の境目です。
その列には脚注が一つ付いていて、適用範囲を変えます。 二面せん断の値は鋼およびマルテンサイト系ステンレス鋼の製品にのみ適用され、 オーステナイト系ステンレスのピンには値を規定しません。 A2 や A4 のスプリングピンには、規格上そもそも定格せん断荷重が存在しません。 耐食のために図面がステンレスを指定した時点で、 表の数字は静かに適用外になっています。
もう一方の規格が公表していない数字
32 kN のほうは硬化した平行ピン、 つまり研削された中実のピンのもので、ISO 8734 の対象です。 その規格の要求表を読むと、並んでいるのは材料、硬さ、表面、表面粗さ、 仕上がり、そして受入れ。せん断の行はありません。 硬さは詳しく書かれていて、全体硬化形が 550 から 650 HV30、 表面硬化形は表面 600 から 700 HV1。 しかしそれを荷重に換算する条文はどこにもありません。
これで 32 kN が誤りになるわけではありません。 平行ピンのせん断値は自社で試験しているメーカーから出ていて、 試験した数字は本物の数字です。ただ、二つの数字が同じ種類のものではない、 ということではあります。片方は供給者が適合を主張するために満たすべき最小値、 もう片方はカタログ値で、試験条件はこちらが読みに行かなければなりません。 互換であるかのように並べて引用することが、二倍の差が見過ごされる経路です。
これらのピンが担う位置決めの役割と、なぜ三本ではなく二本なのかは screws cannot locate(英語)にあります。 この記事が扱うのは、ピンが位置を決めているのではなく荷重を受けている場合です。
設計変数は穴のほうで、スリットは閉じてはいけない
ISO 8752 は取付けに短い一項しか割いていませんが、 そこだけで規格の代金に見合います。 穴径はピンの呼び径に等しく、公差域クラス H12 とすること。 それだけです。しめしろの計算もなく、選ぶべきはめあい表もありません。 そもそもなぜ穴基準が既定なのかは why fits are hole basis(英語)にあります。 この箇条が珍しいものだという点は書いておく価値があります。 隣にある中実の平行ピンの規格は二つとも、 穴に一言も触れていません。
しめしろはピンの側から来ます。呼び 5 mm のピンは 取付け前で 5.4 から 5.6 mm、 同じ寸法の H12 穴は 5.000 から 5.120 mm。 ピンは直径で最大 0.5 mm ほど大きく、 入っていく間ずっと穴壁に締め付けられていきます。
そしてここが引っかかるところです。 許容される最小の穴に取り付けたとき、スリットが完全に閉じてはならない。 合わせ目どうしが突き当たってしまったスプリングピンは、もうばねではありません。 側面に割れの入った、出来の悪い中実ピンになっています。 表のせん断値は、その状態で測ったものではありません。
めっきしないこと。そしてその言い方が普通ではない
ピンの規格はどちらも表面処理の条項を持っていますが、 その書きぶりの違いは飾りではありません。
平行ピンの ISO 8734 は、水素ぜい化を避けるために適切な処理工程を用いることが望ましい、 めっき後は直ちに適切な処理を施すこと、と述べます。よくある書き方です。
ISO 8752 はもう一歩踏み込みます。水素ぜい化のおそれがあるため、 スプリングピンは電気めっきやりん酸塩処理を施さないほうがよい。 防食のために必要で双方が合意する場合、めっき直後のベーキングは必須であり、 それでも水素ぜい化が起きないことは保証されない。 既定の納入状態は、防錆潤滑剤を塗った素地のままです。
理由は部品そのものにあります。スプリングピンは 420 から 560 HV に硬化され、 そのうえ自分のしめしろによって恒久的に引張状態に置かれます。 高い硬さ、持続する引張応力、吸蔵された水素。この三つが条件で、 この部品は設計上すでに二つを自前で供給しています。 三つめが何をするのか、なぜ破損が数日後に来るのかは hydrogen embrittlement(英語)にあります。
棚に並ぶ形を説明する二つの事実
- 入れ子は設計です。ISO 8752 の適用範囲の注記に、 呼び径はピンを別のピンの中に入れられるように、 あるいは ISO 13337 の軽荷重形と組み合わせられるように選んである、とあります。 ピンの中のピンは設計された構成であって、現場の思いつきではありません。
- 重荷重と軽荷重は別の規格です。 ISO 8752 が 1 から 50 mm の重荷重形、 ISO 13337 が 2 から 50 mm の軽荷重形で、値も独自かつ低め。 外径が同じピンでも定格が違いうるので、 規格番号は呼び径の隣に書いておくものです。
ピンを図面に入れる前に決めること
- どの規格か。ISO 8752 の重荷重、ISO 13337 の軽荷重、 それとも ISO 8734 の中実平行ピン。互換ではありませんし、 ばねなのは前の二つだけです。
- 穴は H12。はめあい表から選ぶものではありません。 そして穴公差の小さい側でもスリットが開いたままかを確認すること。 穴の側が仕様であってドリルの側ではない、という同じ構図は 下穴の表は一つの数値ではなく公差の帯ですにもあります。
- せん断値を引く前に材質を見る。 オーステナイト系ステンレスには規定の二面せん断荷重がありません。 ステンレス指定と ISO 8752 の数値によるせん断計算は、両立しません。
- 最小値は許容値ではない。使える数値がどこから来るのか、 そしてファスナーの規格がなぜそれを出さないのかは 使用荷重限度は「許可」であって「予測」ではありませんにあります。
- めっきするのかどうか。するなら、それはベーキングの話であり、 規格自身が消せないと述べているリスクを受け入れるかどうかの話です。
この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。
よくある質問
5 mm のスプリングピンのせん断強さはいくつですか。
ISO 8752 は重荷重形スリット付きスプリングピンの 5 mm について、最小二面せん断強さ 17.54 kN を与えています。材質は鋼またはマルテンサイト系ステンレス鋼で、試験は ISO 8749 によります。これは適合のための最小値であって設計許容値ではありませんし、オーステナイト系ステンレスのピンには適用されません。規格はそちらに値を規定していないからです。同じ呼び径でも ISO 13337 の軽荷重形は独自の、より低い値を持ちます。
平行ピンのせん断値が出典ごとに違うのはなぜですか。
規格値ではないからです。硬化平行ピンを扱う ISO 8734 が規定するのは材料、硬さ、表面、表面粗さ、仕上がり、受入れで、せん断の要求は一切ありません。平行ピンの二面せん断の数値はいずれもメーカーが自社製品を試験して出したもので、試験条件もその値の定義もそのメーカーのものです。数値と一緒に読む必要があります。
スプリングピンの穴はどの寸法にしますか。
ピンの呼び径そのもの、公差域クラス H12 です。ISO 8752 は一文で述べていて、ほかのはめあいの選択肢を示していません。しめしろはピンを大きく作ることで得ています。呼び 5 mm のピンは取付け前で 5.4 から 5.6 mm、対する穴は 5.000 から 5.120 mm。規格には見落としやすい確認がもう一つあって、許容される最小の穴に取り付けたときスリットが完全に閉じてはならない、とされています。
スプリングピンに亜鉛めっきはできますか。
合意すればできますが、ISO 8752 は勧めていません。表面処理の条項は、水素ぜい化のおそれがあるため電気めっきやりん酸塩処理は施さないほうがよい、施す場合はめっき直後のベーキングが必須である、それでも水素ぜい化が起きないことは保証されない、と述べています。既定は防錆潤滑剤を塗った素地です。このピンは 420 から 560 HV に硬化され、自分のはめあいで引張状態に置かれていて、ぜい化に必要な三条件のうち二つを自前で持っています。
同じ直径なら、スプリングピンは中実ピンより弱いのですか。
定格荷重は低いですが、理由は中空だからというだけではありません。ISO 8752 の値は断面から計算したものではなく、製品としてのピンで測った値です。材質も 420 から 560 HV に硬化したばね鋼で、全体硬化の平行ピンの 550 から 650 HV30 とは違います。役に立つ比較は、その二つの部品それぞれについて公表されている数字どうしであって、中空断面についての直感とカタログの一ページとの比較ではありません。
参考資料
- ISO 8752:2009 — スリット付きスプリングピン、重荷重形;第 1 節 適用範囲と入れ子の注記、表 1 最小二面せん断強さと取付け前のピン径、第 4 節 穴とスリットの要求、表 2 材料・硬さ・表面処理
- ISO 8734:1997 — 硬化鋼およびマルテンサイト系ステンレス鋼の平行ピン;表 2 要求事項、せん断の規定を含まない
- ISO 13337:2009 — スリット付きスプリングピン、軽荷重形、2 mm から 50 mm
- ISO 8749 — ピンおよび溝付きピンのせん断試験;ISO 8752 の値の背後にある方法
ISO 8752:2009 と ISO 8734:1997 は公開されているプレビュー PDF から読みました。どちらも寸法表と要求表が全部入っており、本稿の数値はすべてそのページからのものです。ISO 13337 は読んでいません。ISO 8752 が言及しているので名前を挙げただけで、そこからは何も引用していません。ISO 8749 のカタログ番号は第二の情報源では照合していません。32 kN という平行ピンの数値は、元スレッドが検索結果から引いたもので、特定のメーカー文書までは追っていません。ここで述べているのはそれがどういう種類の数字かであって、正確かどうかではありません。本ページのどの数値も設計許容値ではありません。適合のための最小二面せん断強さと、継手の使用荷重は別の量であり、後者を決める継手の形状はピンの規格が供給できるものではありません。内部リンクの多くはまだ英語版のみです。
お問い合わせ
お問い合わせにピンが入る場合は、呼び径と一緒に規格番号と穴公差もお知らせください。 重荷重、軽荷重、中実平行ピンは図面注記では似て見えますが定格が違います。 スプリングピンについては、穴こそが「まだばねとして働くか」を決める仕様項目です。