割れた「ステンレス」のバルブボルト:クロム 9%、マンガン 16%、仕様欄は Not available

ある石油化学プラントの消防設備で、デリュージ弁のボンネットボルトが使用中に割れ、折れました。2025 年に Scientific Reports に載った破損解析で分光分析にかけると、マンガン 15.8%、クロム 9.10%、銅 1.70%、ニッケルなし。未使用品も同じ成分でした。ISO 3506-1 はステンレス鋼をクロム 10.5% 以上と定義しています。論文の使用条件の表で、ボルト・ナット・座金の材料の欄は「Not available」です。読了まで約 6 分。

灰色の弁蓋フランジと六角ボルト。手前のボルト頭下に赤い亀裂

届いた七本

ボルトは消防用デリュージ設備の 6 インチ OS&Y 仕切弁のボンネットを留めていたもので、弁箱は ASTM A126 Class B のねずみ鋳鉄、 ボンネットのボルトは 4 本。周囲は湿った塩分を含む海洋性の大気で、冷却水の塩化物イオンは上限 300 ppm に近い値でした。

調査者が受け取った 7 本のうち、2 本は頭部と軸のつなぎの R 部で破断、2 本は同じ位置で割れ、3 本は見かけ上無傷。 頭部、座金、ナットは赤く塗装され、軸は濃い褐色のさびに覆われていました。

成分表の四つの数字

ボルトの化学成分(wt.%、論文表 2、分光分析)
CMnSiPSCrCuFe
0.03515.80.240.060.0059.101.70残

ニッケルは表にありません。ナットは Mn 14%・Cr 11%、座金は Mn 14%・Cr 13%。論文はこの材料を、変形双晶で強化される高マンガンの オーステナイト鋼、TWIP 鋼に分類しています。

ISO 3506-1:2020 の 3.5 は、ステンレス鋼をクロム 10.5% 以上、炭素 1.2% 以下の鋼と定義しています。 9.10% はこの線に届きません。ナットの 11% と座金の 13% は超えていますが、ボルトは超えていません。同じ論文の提言の段落は、 それでもこれらを「高強度ステンレス鋼部品」と呼んでいます。

仕様欄:Not available

論文の表 1 は使用条件で、最初の行「ボルト、ナット、座金」の材料は Not available、応力の行も同じです。調査者の手にあったのは部品で、 仕様ではありませんでした。材料を判断する根拠は自分たちの分析だけで、未使用品が同じ成分だったことは、使用中の変化ではなく買った時点で こうだったことを示しています。

調達の立場ではこれが一番使える点です。規格も区分も書いていない注文は、何が届いても間違いにならない。比べる相手がないからです。

亀裂はどこから始まったか

亀裂はすべて頭部と軸のつなぎの R 部と首の部分で、起点は腐食ピットでした。ピットは頭部とその下の座金・ナットとのすき間にでき、 そこに海洋性大気の塩分がたまっていました。論文は、より卑な鋳鉄の弁箱との異種金属接触腐食にも触れています。亀裂は締付けによる 引張応力に直角な方向に進んでいます。

R 部はいちばん硬い場所でもあります。冷間成形後に熱処理されておらず、頭部表面は約 435 HV、R 部は約 470 HV、軸の中心は約 225 HV。 破面にはディンプル、擬へき開、粒界割れが混在し、結論は水素ぜい化を伴う塩化物応力腐食割れです。 引張試験は降伏 514 MPa、引張強さ 690 MPa でした。

すき間、R 部、最も硬い部分が同じ場所に重なっています。同じ日に書いた VW 転向ボルトのリコールでも、報道によれば折れたのは頭部で、 原因はボルト周囲に入り込んだ湿気でした。

論文の三つの提言

一、海洋環境では、材料を選ぶ際に NaCl が高強度ステンレス部品に与える影響を考慮すること。 二、各ボルトに適切な予張力を与えること。管理がなければ疲労き裂やフレッティング、締め過ぎにつながる。 三、頭部下の R の大きいボルトの採用も検討すること。

買う側からは四つ目を足せます。注文に規格と区分を書くこと。たとえば ISO 3506-1 A4-70 とし、 受入れ時にミルシートを求め(ミルシートの読み方)、疑いがあれば成分分析をする。 これは論文の提言ではなく、Not available の欄から導いたものです。

このページから言えないこと

論文はボルトのメーカーや出所を書いておらず、このページも推測しません。690 MPa はどのステンレスの強度区分とも比べていません。 論文がどの区分で買ったかを書いていないからです。一件の事例であり、ステンレス締結部品一般の成分については何も言えません。 ISO 3506-1 は 3.5 の定義だけを引き、成分表は公開プレビューの外です。

この記事は手順 6、書類を扱います。全体の順序は相手材、ねじ、頭部、駆動部、表面処理、書類で、これを崩すと微調整ではなく手直しになる理由はねじの決め方にあります。

よくある質問

クロム 9% のボルトはステンレス鋼か?

ISO 3506-1:2020 の 3.5 はステンレス鋼をクロム 10.5% 以上、炭素 1.2% 以下と定義しているので、9.10% は定義に入りません。破損解析はこの材料を高マンガンの TWIP 鋼(Mn 15.8%、Cu 1.70%、ニッケルなし)に分類していますが、提言の段落では高強度ステンレス部品と呼んでいます。

バルブのボルトはなぜ割れたのか?

論文によれば、亀裂は頭部と座金・ナットのすき間にできた腐食ピットから、頭部下の R 部と首で始まりました。海洋性大気の塩分がそこにたまり、鋳鉄の弁箱との異種金属接触腐食もありました。R 部は約 470 HV で最も硬く、結論は水素ぜい化を伴う塩化物応力腐食割れです。

参考資料

論文は全文を読み、表 1・表 2、硬さ、引張試験、結論の数値は原文どおりです。2026-10-02 の論文収集(fastener corrosion、オープンアクセス)で見つけたものです。ISO 3506-1 は 3.5 の定義だけを引いています。

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ステンレスボルトの引合いでは、規格と区分(例:ISO 3506-1 A4-70)、使用環境(塩化物、鋳鉄やアルミとの接触)、ミルシートや成分分析の要否を書いてください。

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