304 ステンレスボルトはナットに隠れたねじ山から傷む:すき間の中は pH 3〜4

ステンレスボルトのさびを点検するとき、見えるのはナットの外に出ている部分だけです。2023 年に npj Materials Degradation に載った実験は、304 ボルトの二つの部分を分けて測りました。ナットに覆われたすき間部と、溶液にさらされた露出部です。30 日後、すき間の溶液は pH 3〜4 まで下がり、両者の電位差は最大約 0.40 V、すき間部はずっとアノードでした。実際のボルトでも、露出したねじ山はほとんど変わらず、かみ合い部のフランクと谷に孔食が出ています。読了まで約 6 分。

ステンレスボルトとナットの断面、内側のねじ山の孔を赤線で囲む

実験の組み方

使ったのは 304 ステンレスの M22 ボルトとナットです。組んだまま浸したものに加え、ボルトから平板試験片を切り出して面積の同じ二つの電極を作りました。 一つは 250 µm の PTFE ガスケットで作った人工すき間の中に置き、溶液がわずかしか届かないようにし、もう一つは溶液に直接さらしました。 二つを導線でつなぎ、その間の電流を測っています。

試験条件(Daniel ほか、2023)
項目条件
材料304 ステンレス、M22 ボルトとナット
溶液0.06 M 塩化ナトリウム、pH 6.8 ± 0.2
人工すき間250 µm の PTFE ガスケット
期間30 日

0.06 M は 1 リットルあたり約 3.5 g、およそ 0.35% で、海水の代わりによく使う 3.5% 食塩水の十分の一です。これは当サイトの換算です。

30 日後、すき間は酸性に

最初は二つとも不動態域、約 −0.20 V(対 Ag/AgCl)にありました。その後、露出側は不動態皮膜が育って電位がゆっくり上がり、 すき間側は最初の 5 日間で下がってから落ち着きました。電位差は最大約 0.40 V で、論文はこれを異種金属接触腐食を駆動するのに 十分と見ています。すき間側がアノード、露出側がカソードで、電流の向きは試験中ずっと変わりませんでした。

すき間の溶液は pH 6.8 から 3〜4 に下がりました。酸素が入らず、溶け出した金属イオンが加水分解し、電荷を釣り合わせるために塩化物イオンが 入り込み、酸性化が自ら進みます。論文は、すき間で還元された水素イオンが水素になり「水素ぜい化につながる可能性がある」とも書いていますが、 これは推論で、この試験で測ったものではありません。

表面分析も一致します。露出面の皮膜は酸化物 55%・水酸化物 30%、すき間面は酸化物 41%・水酸化物 55%。酸化物が少ないほど皮膜は薄く、保護性が劣ります。

実際のボルトはどうなったか

組んだまま浸したボルトとナットでは、露出したねじ山は薄い筋が出た程度で、目立つピットはありません。ナットにかみ合っていた部分は、 山頂・フランク・谷に局部腐食があり、拡大すると 10 µm を超える浅い楕円のピットでした。外からはきれいに見える 304 ボルトでも、 傷んでいる場所はナットを外すまで見えないことがあります。

同じ日に書いたバルブボルトの破損解析は現場の例で、亀裂は頭部と座金のすき間から始まり、 そこに海洋性大気の塩分がたまっていました。ナットの下と頭の下は、同じ形のすき間です。

ねじを指定する人にとっての意味

点検は露出部だけでは足りない。外にさびがなくても、かみ合い部が無事とは限りません。確かめるにはナットを外します。

すき間は形の問題で、材料が変えるのは程度。論文が挙げた三つの要因、酸素の偏り、内外の溶液の違い、活性面と不動態面の違いは、 どれも「一部が覆われている」ことから来ます。試験は 304 だけで、A4 ならどれだけ良いかは当サイトは推測しません (A2 か A4 か)。

このページから言えないこと

30 日間、薄い食塩水、人工すき間での実験室の結果で、実際のボルトの寿命には換算できません。pH 3〜4 は人工すき間の溶液で、 実際のボルトのかみ合い部で測った値ではありません。試験したのは 304 だけで、防食対策の効果も試していません。 「水素ぜい化の可能性」は論文の推論です。

この記事は手順 5、表面処理を扱います。全体の順序は相手材、ねじ、頭部、駆動部、表面処理、書類で、これを崩すと微調整ではなく手直しになる理由はねじの決め方にあります。

よくある質問

ステンレスボルトはなぜナットの中から腐食するのか?

そこがすき間だからです。Daniel ほか 2023 年の実験では、304 ボルトのナットに覆われた部分には酸素が届かず不動態皮膜が弱まり、溶液は 30 日で pH 3〜4 まで酸性化しました。露出部との電位差は最大約 0.40 V で、すき間側がアノードになりました。

外がさびていなければ大丈夫か?

必ずしもそうではありません。この実験では露出したねじ山は薄い筋程度だったのに対し、かみ合い部のフランクと谷には 10 µm を超えるピットがありました。ねじ山を確かめるにはナットを外す必要があります。

参考資料

論文は全文を読み、試験条件、電位、pH、XPS の割合は原文どおりです。3.5 g/L への換算と海水との比較は当サイトの計算です。2026-10-02 の論文収集(fastener corrosion、オープンアクセス)で見つけたものです。

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