SpaceX CRS-7 の調査で問題になったアイボルト:SpaceX は材料欠陥が最も可能性が高いとし、NASA の審査チームは設計ミスも指摘した。工業用鋳物を追加スクリーニングなしで使い、メーカー推奨の安全率 4:1 も考慮していなかった

部品が折れたとき、まず浮かぶのは「このロットが悪かった」という考えです。2015 年 6 月 28 日、SpaceX の国際宇宙ステーション補給 7 号機(CRS-7)は打上げ約 139 秒後に 2 段目で異常が起き、その後機体が分解しました。NASA 監察総監室(OIG)の報告によると、SpaceX は同じ注文書で購入したストラット部品を事後に試験し、鋳造欠陥、規格外の材料、不適切な熱処理を見つけています。一方、NASA 独立審査チーム(IRT)の公開要約は別の点を強調しました。この鋳造 17-4 PH ステンレスのアイボルトは工業用の部品で、低温と飛行環境下の重要な位置に使われ、追加のスクリーニングがなく、スクリーニングや試験も不十分で、メーカーが推奨する安全率 4:1 も考慮されていなかった。チームはこの選定と適用を設計ミスとしています。この記事で扱うのは、カタログ部品を重要な用途へ持ち込むとき、何を一緒に確認すべきかです。部品がロケットのどこにあったか、二つの調査の判断、「設計ミス」の記述を当サイトが分けた五つの側面、4:1 はまずどの値に対するものかを問うこと、スクリーニングと調達側が聞ける質問、最後にこの二つの文書から言えないこと、の順に見ていきます。読了まで約 8 分です。

斜めに置かれた鋼製のストラット。先端のアイボルトが首の部分で折れ、アイとねじ部の間に小さなすき間があり、二つの破断面が赤く示されている(模式図)。

139 秒、1 本のアイボルト

CRS-7 は Falcon 9 バージョン 1.1 で、ケープカナベラル空軍基地の 40 番射点から打ち上げられました。IRT の要約は Dragon 宇宙船の貨物を 4,303 lb(1,952 kg)としています。 OIG の報告はこの 1,952 kg を与圧貨物とし、別に 526 kg の非与圧貨物を挙げていて、その中に商業有人飛行で使う予定だった国際ドッキングアダプタの 1 基目が含まれていました。 約 139 秒後、2 段目の液体酸素(LOx)タンクで異常が起きます。1 段目の Merlin 1D エンジン 9 基は正常に動き、Dragon は 2 段目の事故を生き延び、地平線の下に消えるまで地上と交信を続けました。 OIG によると、この失敗で NASA の貨物 1 億 1,800 万ドル分が失われました。

正常な飛行から炎上までの異常は 800〜900 ミリ秒しかありませんでした。IRT の要約は「within a blink of an eye」(まばたきの間)と書いています。 チームはミリ秒単位の時系列を独自に組み立て、この間の 115 個のテレメトリ指示の大部分を説明しましたが、9 個は完全には説明できていません。

IRT は因果を三段に分けています。直接の原因は 2 段目 LOx タンクの破裂、あり得る(credible)中間の原因はタンク内のヘリウムを充填した複合材圧力容器(COPV)が外れたこと、 あり得る起点の原因はその COPV を支える軸方向ストラットの破損です。要約が示すあり得るシナリオは具体的で、ストラットの「threaded cast stainless steel eye bolt (AKA: “rod end”)」、 つまりねじ部のある鋳造ステンレスのアイボルト(ロッドエンド)が上昇中の荷重で折れ、COPV が取付けから外れ、液体酸素の中で浮力によって加速し、タンク上部のドームに激しく衝突した、というものです。 IRT はほかの可能性も検討しました。たとえば液体酸素が輸送管の環状空間に漏れて噴き出すシナリオについては、マーシャル宇宙飛行センターで試験装置を作って 2 週間試験し、800〜900 ミリ秒の時間内に起こすだけの熱量はないと結論しています。

二つの調査の判断:直接の原因は一致、起点は分かれる

IRT は、直接と中間の原因の判断は SpaceX 自身の事故調査チーム(AIT)と一致しているとし、違いは COPV がなぜ外れたかにある、と書いています。IRT は起点の原因を一つに絞っておらず、ストラットの別の部分が壊れた可能性もあり得る原因に残しています。

CRS-7 の起点となった原因:SpaceX と NASA の判断(NASA IRT 公開要約 p.7–8、NASA OIG IG-16-025 p.8、p.23–24)
項目SpaceX の事故調査NASA 独立審査チーム(IRT)
起点の原因材料欠陥が「most probable」(最も可能性が高い)材料欠陥はあり得るが、最も可能性が高いとはしない。挙げた起点の原因を「probable」と評価し、一つには絞らない
同程度にあり得るほかの原因(公開要約は SpaceX のほかの原因への評価を紹介していない)ロッドエンドの製造時の損傷、ストラットの誤取付け、ロッドエンドの付随的な損傷、またはストラットの別の部分の破損
事後の試験同じ注文書で購入したストラット部品:鋳造欠陥、「out of specification」の材料、不適切な熱処理(OIG による紹介)(公開要約はこの三つの試験結果を挙げていない)
主要な技術的所見(故障したストラット部品の交換を勧告、OIG による紹介)設計ミス:工業用鋳物の選定と適用、スクリーニングや試験の不足、メーカーの 4:1 推奨の不考慮、予測飛行条件でのモデル化や荷重試験の不足

OIG の報告は、説明の日付と当時挙げられた要因を補っています。IRT の役割を担った NASA 打上げサービス計画(LSP)は、2015 年 12 月 18 日に NASA 幹部へ説明した時点ですでに単一の最有力原因を示さず、 材料欠陥のほかに製造時の損傷と取付け不良も挙げ、「不適切な材料選定」や組立中に人が飛行ハードウェアの上に立つといったやり方を、寄与した可能性のある要因としていました。 OIG はまた、CRS-7 ともう一件の Orbital 社の補給機失敗について、請負業者が主導した調査の所見はおおむね技術的原因と故障した部品やシステムの交換にとどまり、SpaceX の調査の勧告は故障したストラット部品の交換だった、と観察しています。 LSP はこれとは別に、この部品の選定、使い方、試験不足についての所見を出しました。ただし OIG は同時に二つのことも書いています。SpaceX は組織や計画面の原因を報告しなかったものの、是正措置は組織と計画の面にも及んでいたこと、そして LSP の調査は根本原因分析は行わず技術面に集中したと自ら述べていることです。

当サイトの読み方では、二つの判断は重点が違います。SpaceX は材料欠陥を最も可能性の高い原因とし、同じ注文書で購入した部品に材料の問題を見つけました。IRT はこれに加えて、この部品の選定と適用の条件を強調しました。 材料欠陥と適用上の設計の問題は同時に存在しえますし、部品を交換しただけでは、適用上の問題が片づいたことの証明にはなりません。

「設計ミス」の記述を五つの側面に分ける

IRT の技術的所見の 1 番目(TF-1)は一文だけです。7 ページの結論部分の説明とあわせて、当サイトはこれを五つの側面に分けました。原文の順に並べます。

TF-1 と p.7 結論部分の五つの側面(NASA IRT 公開要約 p.7–8。分け方は当サイトによる)
原文意味
industrial grade (as opposed to aerospace grade) 17-4 PH SS cast part部品そのもの:工業用、17-4 PH 析出硬化系ステンレス、鋳物。要約はわざわざ航空宇宙用との対比を示している
in a critical load path位置:COPV を支える重要な荷重経路。壊れると COPV が取付けから外れうる
under cryogenic conditions and flight environments環境:液体酸素タンク内の COPV を支える部品で、低温と上昇中の飛行環境にさらされる
without additional part screeningスクリーニング:部品に追加のスクリーニングをしていない(p.7 ではスクリーニングや試験が不十分と表現)
without regard to manufacturer recommendations for a 4:1 factor of safety使い方:メーカーが自社の工業用部品に推奨する安全率 4:1 を考慮していない

結論部分にはもう一項あります。予測される飛行条件のもとで、適切なモデル化も十分な荷重試験もしていない、という点です。前の三つは部品とその置かれた状況を、残りは選定と適用の際に評価、スクリーニング、検証が十分だったかを表しています。 要約は工業用部品を使ってはいけないとは書いていません。対応する 1 番目の勧告(TR-1)は、市販部品を使うときは設計上の適用を追加で評価し、特に飛行に重要な用途でのメーカーの推奨を理解すること、としています。

同じ要約には、失敗と直接の関係はない一般的な所見(TF-2)もあります。液体酸素の輸送管を支えるワイヤロープは市販品で、メーカーは長さが重要な用途ではプレストレッチ済みのロープを指定するよう注意していましたが、使うときにその注意は考慮されていませんでした。 当サイトは二つの共通点を、市販部品のメーカーの推奨が適用の評価に十分に取り込まれていなかったこと、と読んでいます。

4:1 は、まず「どの値に対してか」を問う

メーカー推奨の 4:1 をどう使うか、まったくの仮の小さな数字で見てみます。仮に、メーカーがまだ割り引いていない強度の基準値(たとえば破断荷重)を 4,000(単位は問わない)と示し、この基準値と使用荷重の間に 4:1 を保つよう推奨しているとします。 すると使用荷重の上限は 1,000 です。設計で採用した比が 4:1 を下回れば、メーカーの推奨に届いていません。逆に、カタログの数字がすでに割り引かれた使用荷重なら、さらに 4 で割るのは二重に差し引くことになります。 つまり最初の問いは、カタログのその数字がどちらの種類かです。公開要約には、4:1 がどの値に対するものか、この部品の定格がいくらか、飛行荷重がいくらかは書かれておらず、この例は CRS-7 の実際の数字ではありません。

メーカーがなぜ工業用鋳物に 4:1 を指定するのか、二つの文書はどちらも説明しておらず、当サイトも理由を推定しません。言えるのは次のことだけです。SpaceX が事後に同じ注文書で購入した部品で見つけた三つの問題、鋳造欠陥、規格外の材料、不適切な熱処理について、 OIG の注はそれぞれが何かを説明しており、不適切な熱処理はばらつきや弱点を生みうるとしています。こうした問題は外観検査だけでは排除できるとは限らない、というのは当サイトの推論で、文書は 1 本ずつの強度とカタログ値の比較を示していません。

当サイトは使用荷重限度は「許可」であって「予測」ではありませんで別の規格を読んでいます。EN 13414-1 のワイヤロープスリングは使用係数 5 を前提にしており、表示される値は「支えることを許可された」量で、部品が壊れる点ではありません。 これは類比にすぎず、定格値には適用条件がついている場合がある、という注意です。IRT の要約はこの部品の定格値や表示の仕方を示しておらず、両者をそのまま同じものとは扱えません。

ロットに対するスクリーニングとは何か、調達側は何を聞けるか

要約は「screening」(スクリーニング)でどんな試験をするかを定義しておらず、SpaceX がその後に行ったスクリーニングの方法や試験の詳細も個別には挙げていません。最終ページにあるのは、あり得るとされた原因と技術的所見がすべて、Jason-3 ミッション (Falcon 9 バージョン 1.1 の最後の飛行、2016 年 1 月 17 日)の前に SpaceX と LSP によって是正または軽減された、という記述です。OIG が記録した措置には、検査、疑わしい部品の交換、追加試験、 すべての飛行ハードウェアの認証の見直し、NASA の技術基準により近づけるための品質管理手順の変更、作業追跡の手順の更新、設計・製造・飛行の三つの信頼性チームへの再編があります。

冒頭の「このロットが悪かった」という考えに戻ります。以下は当サイトが二つの文書から広げた質問の一覧で、NASA や SpaceX が書いた手順ではありません。カタログ部品を、もともと想定されていたより厳しい用途へ移す前に、少なくとも次の五つに答える必要があります。

  1. カタログ値はどんな条件で決められたか。温度、荷重の方向、静荷重か動荷重か。CRS-7 の部品は液体酸素タンクの中で使われ、要約は低温と飛行環境を TF-1 の一部に挙げています。特定の規格でのアイボルトの定格の方向は、別の記事で扱いました:アイボルトの使用荷重限界は、その中心軸に沿って定義されている。
  2. メーカーはどれだけの安全率を、どの値に対して推奨しているか。TF-1 は 4:1 を挙げ、TR-1 はメーカーの推奨を理解するよう求めています。「どの値に対してか」は当サイトが広げた問いで、係数の基準と条件をカタログの注記や技術資料で示してもらうよう供給者に頼めます。
  3. 起こりうる欠陥のそれぞれを、どの書類またはどの試験で止めるか。当サイトの提案は、トレーサブルな化学成分と機械的性質のデータを供給者に出してもらい、それがどの範囲を代表するかを説明してもらうことです(ミルシートの読み方)。鋳造の内部欠陥や熱処理が適切かどうかは、どの方法で確認し、何個抜き取るかを別に聞きます。
  4. 抜取検査の合格は何を意味するか。抜取検査は、抜取計画に従ってロットを受け入れるかどうかを決めるもので、1 本ずつすべてが合格であることを保証しません(「検査合格」は結局どういう意味なのか)。全数スクリーニングをするかどうかは、用途、リスク、適用される要求に応じて設計側が確認すべきことです。
  5. 予測される使用条件でモデル化や荷重試験をしたか。要約の結論部分が最後に挙げた項目です。供給者が出すデータや試験が実際の使用条件を含んでいるかは、設計側が確認することを当サイトは勧めます。

この二つの文書から言えないこと

本ページの根拠は IRT の 9 ページの公開要約と OIG の監査報告だけで、IRT の完全な報告書や SpaceX の事故報告書は引用しておらず、二つの文書にない部品の定格値や破断荷重も持ち込んでいません。 同じ注文書で購入した部品に対する SpaceX の試験結果は OIG による紹介を引用しているだけで、同じ注文書は同じ製造ロットを意味せず、折れた 1 本に同じ欠陥があったことの証明にもなりません。 IRT は起点の原因を probable と評価し、同程度にあり得る原因を複数挙げて一つに絞っておらず、本ページも絞りません。 二つの文書はどちらも、17-4 PH の低温での性質の数値を示しておらず、工業用と航空宇宙用の違いを定義しておらず、4:1 で使えば折れなかったとも言っていません。 テレメトリ指示のうち 9 個は完全には説明されていません。「調達側は何を聞けるか」の節は当サイトの読み方で、調査機関の勧告でも設計基準でもありません。

この記事は手順 6、書類を扱います。全体の順序は相手材、ねじ、頭部、駆動部、表面処理、書類で、これを崩すと微調整ではなく手直しになる理由はねじの決め方にあります。

よくある質問

工業用部品と航空宇宙用部品は何が違うのですか?

NASA 独立審査チームの公開要約は「industrial grade (as opposed to aerospace grade)」という対比を示すだけで、両者の違いは定義していません。問題にしているのは選定と適用で、この工業用の鋳造 17-4 PH ステンレス部品が、低温と飛行環境下の重要な荷重経路に、追加のスクリーニングなしで、スクリーニングや試験も不十分なまま、メーカー推奨の安全率 4:1 も考慮されずに使われたことです。

カタログの定格荷重をそのまま設計値に使ってよいですか?

定格値の定義、適用条件、メーカーの推奨を確認する前に、そのまま使うことはできません。この事例で確かなのは、NASA のチームが「メーカー推奨の安全率 4:1 を考慮しなかった」ことを設計ミスの一部としたことです。公開要約には 4:1 がどの値に対するものかは書かれていないため、係数の大きさ、その対象となる値、適用条件をメーカーに説明してもらう必要があります。

SpaceX は材料欠陥としたのに、なぜ NASA は設計ミスとしたのですか?

二つは材料欠陥の評価が異なり、NASA のチームはそれに加えて適用上の設計の問題を挙げました。NASA 監察総監室の報告によると、SpaceX は同じ注文書で購入した部品を事後に試験し、鋳造欠陥、規格外の材料、不適切な熱処理を見つけました。IRT の要約によると、SpaceX は材料欠陥を最も可能性の高い起点の原因としています。NASA のチームは材料欠陥をあり得るとしつつ、製造時の損傷、誤取付け、付随的な損傷も同程度にあり得るとしました。主要な技術的所見は、部品の選定と適用の条件、スクリーニングと試験、メーカーの推奨、飛行条件での検証にかかわるもので、当サイトはその一部を調達側の話に広げています。

合格したロットに入れ替えれば解決しますか?

二つの文書はどちらもそうは言っていません。NASA 監察総監室の報告によると、SpaceX は検査、疑わしい部品の交換、追加試験を行い、すべての飛行ハードウェアの認証を見直し、品質管理の手順を変えました。NASA のチームの勧告は、市販部品を使うときに設計上の適用を追加で評価し、メーカーの推奨を理解することです。当サイトは、部品の入れ替えだけをこうした評価が済んだ証拠にはできないと考えます。

参考資料

本ページは IRT の公開要約と OIG の監査報告に基づいており、IRT の完全な報告書や SpaceX の事故報告書は直接引用していません。SpaceX の事後試験で見つかった三つの問題は OIG による紹介です。「強度の基準値 4,000、使用荷重の上限 1,000」は仮の数字で、CRS-7 の部品の定格や飛行荷重ではありません。要約には 4:1 がどの値に対するものかは書かれておらず、本ページは 4:1 が定められた理由も推定しません。五つの質問と使用荷重限度との類比は当サイトの読み方で、調査機関の結論や勧告ではありません。

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お使いの締結部品を、これまでと違う温度、荷重、重要度の用途に使う場合は、お見積りの際に使用条件、必要な書類(ミルシートなど)、検査方法をお知らせください。その条件に合わせて選択肢をご案内します。安全率と検証の要求は、設計を担当する技術者が使用条件、メーカーの資料、適用される要求に基づいて確認する必要があります。

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