メガネのねじがすぐ緩む:小ねじはふだん強度の 1 割しか使っておらず、締め直すとトルク係数は 0.27 から 0.48 に
2023 年 12 月、Yahoo!知恵袋に「めがねの精密ねじがすぐ緩んで」定期的に締め直している、緩まなくするコツはないかという質問が載りました。2014 年、工学院大学の小林光男氏らが日本機械学会九州支部で発表した 2 ページの講演論文は、小ねじがどれだけ締まっていて、振動のあとどれだけ残るかを測っています。まとめの第 1 項は、ふだん小ねじを締め付けるときの締付け力は小ねじの強度の 10% に満たないというものです。M5 の非熱処理品の試料群では、トルク係数の平均が初回約 0.27、本文によれば 2 回目以降は約 0.48 でした。ただし論文の最小は M3 で、メガネのねじは試験していないので、言えることと言えないことを分けて書きます。読了まで約 8 分。
2023 年の質問
質問は 2023 年 12 月 15 日、Yahoo!知恵袋の「メガネ、サングラス」カテゴリに投稿されました。 メガネの精密ねじがすぐ緩むので定期的に締め直している、緩まなくするコツやアイデアはないか、という内容です。
回答は 2 件で、どちらも点検から入っています。1 件目は、洗浄したか、フレームが歪んでいないか、パーツが摩耗していないかを先に見直し、 それでも緩むなら OS ロックネジを試す、見た目を気にしなければ裏からナットで止める方法もある、 フレーム側の加工精度が悪い場合は買い替えるしかない、と答えています。2 件目は、締め直してからどれくらいで緩むかを尋ね、 数日から 1 週間で緩むならメガネ店でねじ交換、座金があれば座金交換、緩み止めを入れてもらうよう勧めています。 使用年数が長い場合はねじ受けの溝が削れている可能性があり、ねじを替えてもすぐ緩むことがある、 片手でメガネを外しているとすぐ緩み、破損もしやすい、とも書いています。
2020 年 12 月にも同じカテゴリに「メガネのネジが直ぐに緩む」という質問があります。ねじ穴に木工ボンドを入れて締めるという回答に、 質問者は固まって可動しなくなるのも困ると返しています。ベストアンサーは、どこのねじが緩むかによるが、 自分で直すなら最低限、丁番のかみ合わせやフレームの歪みを見極められることが必要だとしています。
どの回答も経験にもとづくもので、小ねじが実際にどれだけの力で締まっているかを測った人はいません。小林氏らの講演論文はそれを測っています。ただし対象は M3〜M6 です。
2 ページの講演論文が測ったこと
著者は序論で、電気・電子機器には小ねじが多く使われ、比較的安易な締結が行われるため、搬送中の振動・衝撃・熱で緩みが起きていると書いています。 一方で、系統的な小ねじの締付けデータは少ないとしています。そこで、最も一般的なトルク法で締め付け、締付け特性をトルク係数 K として求め、振動による緩み試験を行いました。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| ねじ | 鋼製小ねじ M3・M4・M5・M6、熱処理品と非熱処理品、ねじ部長さ 50 mm |
| 締付け工具 | 市販のトルク表示付きレンチ 0.1・0.5・1 N·m の 3 種類 |
| 軸力の測定 | 圧縮型ロードセル(ひずみゲージ式)に座金を介してボルト・ナットで締付け |
| 回数 | 各呼び径 10 本、1 本につき 10 回、計 100 回 |
| 事前測定 | ボルトは万能投影機と三針法、ナットは硫黄 60%・黒鉛 40% を溶かしためねじの鋳型でねじ山形状を測定 |
| 緩み試験 | 機械式振動試験機の上で、片持ちはりをレバーとして共振させ、締結部をこじる |
K は T = K·F·d の係数です。T は締付けトルク、F は締付け軸力、d は呼び径で、ねじ面と座面の摩擦がすべてこの一つの数に入っています。 K が大きいほど、同じトルクで得られる軸力は小さくなります。当サイトの同じボルトを 20 回締め直すでも同じ式を使いましたが、 そちらは M8 を 20 N·m で締め緩めした試験で、今回のトルクはそれより 1〜2 桁小さい範囲です。
ふだんは強度の 1 割しか使っていない
まず、ねじそのものの強さです。熱処理品の最大引張荷重は、非熱処理品のおよそ 2 倍あります。
| 呼び径 | 非熱処理 | 熱処理 |
|---|---|---|
| M3 | 2.24 kN | 5.98 kN |
| M4 | 5.42 kN | 10.60 kN |
| M5 | 7.68 kN | 18.15 kN |
| M6 | 10.43 kN | 25.05 kN |
まとめの第 1 項は、ふだん小ねじを締め付けるときの締付け力は小ねじの強度の 10% 程度に満たず、使用効率の検討が必要だ、というものです。 論文でいちばん大きい 1 N·m のレンチと初回の K 0.27 で換算すると、M5 の軸力は約 741 N、非熱処理品の強度 7.68 kN の 9.6% です。 K が 0.48 になると約 417 N、5.4% に下がり、熱処理品の 18.15 kN に対しては同じ 741 N でも 4.1% にとどまります。 この三つの比率は当サイトの換算で、論文は M5 を実際に何 N·m で締めたかを書いていません。桁の目安として示しています。
当サイトの別の記事と比べると、M8 を 20 N·m で締めた受入れ状態のボルトは、初回の軸力が保証荷重の約 75% でした(その記事での当サイトの換算)。 二つの記事はねじの大きさもトルクも試験方法も違うので直接は比べられず、並べるのは桁を見るためだけです。論文の序論は、小ねじでは比較的安易な締結が行われると書いています。
2 回目以降、同じトルクで得られる軸力は 5 割強
論文は M5 非熱処理品を例に、1 回目、10 回目、100 回全体のトルク係数をヒストグラムで示しています。 どの回も締付けトルクと軸力は直線関係で弾性域にあり、変わったのは傾きでした。
| データ | K の平均 | 標準偏差 | 変動係数 |
|---|---|---|---|
| 1 回目 | 0.268 | 0.061 | 0.23 |
| 10 回目 | 0.479 | 0.154 | 0.32 |
| 100 回全体 | 0.382 | 0.125 | 0.33 |
本文では、初回の締付けは K=0.27 で標準偏差・四分偏差とも小さく、2 回目以降は K が 0.48 に上がり、標準偏差・四分偏差も 0.1 程度高くなる、と書かれています。 トルクが同じなら軸力は K に反比例するので、0.27 ÷ 0.48 から、2 回目以降は同じトルクで初回の 56% しか軸力が出ない計算になります(当サイトの換算)。 図には 1 回目と 10 回目しかなく、2〜9 回目の個別の値は示されていません。
著者は原因を、ねじ面と座面の変形による接触面の摩擦の変化と考えています。表面の測定で確かめたわけではありません。 熱処理品では初回とそれ以降の差が小さいため、再使用には熱処理品が適しているとしています。 また熱処理品は K のばらつきが小さく、平均値は非熱処理品より「約 50% 程度低く」なると書かれていますが、数値の表はありません。
20 回締め直しの記事とは見ているものが違います。あちらは M8 を四つの潤滑状態で 20 回追い、下がる組も上がる組もありました。 こちらは非熱処理の小ねじが 1 回目と 2 回目のあいだで一段跳ね上がり、その先の推移はデータがありません。 二つの記事に共通して言えるのは、外して締め直したねじでは、元のトルク値で得られる軸力が元の数字ではない、ということだけです。
振動のあと、M3・M4 の締付け力はゼロ
緩み試験では、締め付けたねじを振動試験機上の治具に組み、片持ちはりをレバーとして共振させて締結部をこじり、振動後の残留締付け力を測ります。 表 2 にはレバー長さ 3 種類の最大振幅と共振振動数(600 mm:90 mm・550 rpm、400 mm:60 mm・1,200 rpm、200 mm:4 mm・250 rpm)が載っていますが、 本試験でどれを使ったかは書かれていません。
各呼び径の締付け応力をそろえているので、初期締付け力は呼び径とともに大きくなります。
| 呼び径 | 初期 Ff | 振動後 Fr | 残存率 | Ff ÷ 最大引張荷重 |
|---|---|---|---|---|
| M3 | 286 N | 0 N | 0% | 12.8% |
| M4 | 509 N | 0 N | 0% | 9.4% |
| M5 | 811 N | 357 N | 44% | 10.6% |
| M6 | 1,161 N | 578 N | 50% | 11.1% |
M3 と M4 は振動後に締付け力がまったく残っていません。M5・M6 は 4〜5 割が残りました。 各呼び径とも数字は一つだけで、論文は「実例」と呼んでおり、1 回の値か平均かはわかりません。 表 3 にはほかに 4 行あり、熱処理品の行と思われますが、公開されている PDF では黒く塗られて読めません。
著者はこの表から、呼び径が小さいほど緩みやすく、熱処理ボルトのほうが緩みやすいと読み、締付け力の大きさが緩みに大きく効くと説明しています。 後半は前節の「再使用には熱処理品」と逆に見えますが、別々の話です。熱処理品は強度が 2 倍あるので、締付け力が同じなら強度に対する割合は半分程度になります (非熱処理品と同じ Ff なら約 4.5〜4.8%、当サイトの推算)。前節の話は K の再現性です。 まとめの第 5 項はこれを比で表し、使用効率(初期締付け力 ÷ ねじの強度)が高いほど緩みにくいとしています。
ただ、非熱処理品の 4 行だけを見ると、使用効率はどれも 9〜13% で、いちばん高い M3 がゼロになっています。 この表で差をつけているのは呼び径そのもの、つまり締付け力の絶対値です。小ねじがなぜ同じ振動に弱いのかは、論文では分析されていません。 当サイトのねじが緩む理由では、へたり(なじみ)は数 µm という絶対量なので、細く短いねじほど失う軸力の割合が大きいという推論を書きました。 この推論は今回の論文では検証されていません。
メガネに戻すと:論文が届かないところ
論文の最小は M3 です。この頁の三つの出典にはメガネの丁番ねじの寸法がないので、呼び径は書きません(小さいねじの寸法は当サイトの極小ねじの寸法表を参照)。 著者の前報では M1〜M6 の乾燥状態のトルク係数を調べていますが、当サイトはその前報を読めていないので、数字は引用しません。
論文が示したのは、M3〜M6 の範囲で、同じ応力なら呼び径が小さいほど緩みやすいということです。M3 未満でも同じ傾向が続くかは、別に試験しないとわかりません。 0.27 から 0.48 への上昇や M3 のゼロという数字は、M3 以上、この試料、この振動方式での結果で、そのまま持ち込むことはできません。
もう一つの違いがあります。論文の振動は固定された締結部をこじるもので、メガネは毎日丁番を開閉するので、力のかかり方が違います。 開閉による緩みは論文では試験していません。知恵袋の「片手で外すと緩む」も経験談で、データはありません。
現場での判断手順
読み手を二つに分けて整理します。論文と知恵袋の回答をもとに当サイトがまとめた手順で、論文がこの手順を検証したわけではありません。
メガネのねじがすぐ緩む方
- 緩むまでの日数を見ます。回答者の目安は「数日から 1 週間」です。締め直して数日で緩むなら、自分で締め続けるより店に持ち込みます。
- 2 回目以降、同じトルクで得られる軸力は初回より小さくなりました。論文の M5 非熱処理品では、2 回目以降は同じトルクで初回の 5 割強でした。これは M5 のトルク法の結果で、手の感覚で締めるメガネのねじにそのまま当てはめることはできません。言えるのは、古いねじを同じ手応えまで回しても初回と同じ締付け力とは限らない、ということです。
- ねじや座金の交換、緩み止めは店に頼みます。新しいねじにすれば古いねじの摩耗した接触面は避けられますが、初回の K に戻ることを論文が示したわけではありません。長年使ったフレームでは、回答者によるとねじ受けの溝が削れている可能性があり、ねじを替えてもすぐ緩むことがあります。その場合は溝の掘り直しかフレームの買い替えになります。
- 接着剤を自分で入れないでください。2020 年の質問では木工ボンドを勧める回答があり、質問者は固まって丁番が動かなくなるのを心配していました。効果を確かめた人はおらず、ベストアンサーは眼鏡店に持っていくよう勧めています。
小ねじの締結を設計する方
- 使用効率を一度計算します。予定の締付けトルクと想定の K から軸力を出し、ねじの強度で割ります。論文ではふだん 10% に満たないとされています。搬送や振動を受ける締結なら、自分の数字を把握しておきます。
- 強度区分を上げるだけでは締まりません。締付け力が同じなら、強度が 2 倍になると使用効率は半分です。論文の表 3 の本文でも熱処理品のほうが緩みやすいとされています。熱処理品は K が低く、同じトルクでもより大きな軸力が出るので、実際の値は自分のトルクと K で計算します。必要なのは締付け力で、強度はトルクを上げる余地を与えるだけです。
- 繰り返し分解する箇所は熱処理品を選ぶか、交換を規定します。非熱処理品は 2 回目以降に K が 0.27 から 0.48 へ上がり、熱処理品はその差が小さいとされています。保守マニュアルが初回のトルク値をそのまま使うと、再組立て時の締付け力は一段下がります(外したねじは再使用できるか)。
- 一つ上の呼び径を検討し、先に検証します。論文の試験では、同じ応力で M5・M6 は振動後も 4〜5 割残り、M3・M4 はゼロでした。表 3 は実例にすぎないので、呼び径を変える前に自社の締結と振動条件で試します。
- 自社の組合せで K を測ります。論文の装置は圧縮型ロードセルと市販のトルクレンチです。めっき、材料、ナットが変わったら K を測り直すことを当サイトは勧めますが、これは論文の結論ではありません。
この頁から言えないこと
これは講演会の 2 ページの論文で、結論といくつかの実例しか載っていません。試料は M3〜M6 の鋼製小ねじ一式で、M1・M2 もメガネの丁番ねじも含まれていません。 トルク係数の詳細が示されているのは M5 非熱処理品の 1 回目と 10 回目だけで、2〜9 回目、他の呼び径、熱処理品の数値はありません。 振動試験は呼び径ごとに数字が一つだけで、熱処理品の行は読めず、どのレバー長さを使ったか、初期締付け力をどう与えたか(M6 の 1,161 N は K 0.27 で約 1.9 N·m に相当し、論文に載っている 1 N·m のレンチを超えます)も書かれていません。振動の時間や回数、各呼び径で実際に使った振幅と振動数も書かれておらず、呼び径間で同じ振動入力だったとは確認できません。表 3 には繰り返し数や誤差範囲もありません。締付け試験の潤滑・表面状態、材料の種類や強度区分も示されていません。 「ねじ面と座面の変形で摩擦が変わる」は著者の推測です。本頁の 9.6%、56%、使用効率、残存率は当サイトの換算です。 論文は回転による緩みも、緩み止め剤や OS ロックネジ、裏ナットの効果も試験していません。これらの対策は知恵袋の回答に出てきたもので、当サイトに順位をつけるデータはありません。
この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。
よくある質問
小ねじの締付け力は強度の何割くらいですか。
小林氏らの 2014 年の試験(M3〜M6 鋼製小ねじ)では、ふだん小ねじを締め付けるときの締付け力は強度の 10% 程度に満たないとまとめています。当サイトが論文の最大レンチ 1 N·m と初回 K 0.27 で換算すると、M5 で約 741 N、非熱処理品の強度 7.68 kN の 9.6% です。
同じ小ねじを外して締め直すと、締付け力は下がりますか。
この論文の M5 非熱処理品では下がりました。トルク係数は初回が平均約 0.27、2 回目以降が約 0.48 で、同じトルクで得られる軸力は約 56% です(当サイトの換算)。熱処理品は差が小さく、著者は再使用には熱処理品が適しているとしています。
なぜ小さいねじほど振動で緩みやすいのですか。
締付け応力をそろえた振動試験で、非熱処理の M3・M4 は締付け力がゼロになり、M5 は 44%、M6 は 50% が残りました。著者は締付け力の大きさが緩みに大きく効くと説明しています。小ねじがなぜ敏感なのかは、論文では分析されていません。
この数字をメガネのねじに当てはめられますか。
数字は当てはめられません。論文の最小は M3 で、メガネのねじは試験しておらず、丁番の開閉による緩みも試験されていません。論文が示したのは M3〜M6 の範囲で呼び径が小さいほど緩みやすいことで、M3 未満で同じかは別の試験が必要です。
参考資料
- 小林光男・福田勝已・小澤蛍(2014)—— 小ねじの締付けとゆるみの評価(Evaluation of Loosening and Tightening of Small Screw)、日本機械学会九州支部講演論文集 2014, 1G2
- Yahoo!知恵袋(2023-12-15)—— めがねの精密ねじがすぐ緩んできて定期的に締め直しをしています
- Yahoo!知恵袋(2020-12-27)—— メガネのネジが直ぐに緩むんですが、どうすれば良いですか?
- 同じボルトを 20 回締め直す:受入れ状態の軸力は 22.8 kN から 15.7 kN へ、エンジン油を差した組は 2 割増えた
- ねじが緩む理由:一つの語に、別々の二つのことが入っています
- 極小ねじの寸法表:M1〜M5、そして表が語らないこと
論文全文(2 ページ)は当サイトで読み、表 1・表 2・表 3 と図 3 の数値は PDF のページ画像から転記しました。表 3 の熱処理品の行は公開 PDF では判読できません。9.6%、5.4%、4.1%、56%、使用効率、残存率、熱処理品を同じ Ff とした場合の使用効率は当サイトの換算です。論文が引用する前報(M1〜M6、衝撃方式)は読んでいません。「現場での判断手順」は当サイトの整理で、論文による検証はありません。
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搬送や振動を受ける機器に小ねじを使う場合は、呼び径、予定の締付けトルク、熱処理品が必要か、繰り返し分解するかをお知らせください。条件に合わせて選択肢をご提案します。
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