90 本のボルトのうち 84 本が一つ細かった:英国航空 5390 便の風防、#8 並目を #10 細目のアンカーナットにねじ込み、事故後の試験では平均 4.7 lbf in でねじ山が滑った。トルク・ドライバーの設定は 20 lbf in
ねじを締めるときに誤りやすい判断があります。ねじが入り、トルク・ドライバーが作動すれば締まった、という判断です。1990 年 6 月 10 日、英国航空 5390 便(BAC One-Eleven、G-BJRT)はバーミンガムを離陸して約 13 分後、約 17,300 フィートを上昇中に左の風防が客室与圧で吹き飛ばされ、機長は上半身を機外に吸い出されました。客室乗務員が腰、続いて両脚をつかみ、着陸まで押さえ続けました。英国航空事故調査局(AAIB)の報告書によると、事故の前日未明の風防交換で取り付けられた 90 本のボルトのうち 84 本は規定より一つ細いサイズでした。どれもねじ込むことができ、作業者の説明では 1 本ごとに「予想どおりの手応え」がありましたが、報告書は、これらの 8 UNC ボルトがドライバーの作動トルクに 1 本も達しなかったと判断しています。この記事では報告書に沿って、これを締結部品の識別の問題として読みます。末尾 2 文字だけが違う三つの部品番号、一つ細いボルトがなぜねじ込めたのか、トルク・ドライバーがなぜ警告しなかったのか、ボルトがどう選び間違えられたのか、取り付け後に気づける機会がいくつあったのか、の順に見ていきます。読了まで約 12 分です。
17,300 フィートで、風防は外へ押し出された
まず、ボルトが登場するところまで経過をたどります。AAIB 報告書 1/92 の 1.1 によれば、BA 5390 便はバーミンガム発スペイン・マラガ行きの定期便で、乗客 81 人、客室乗務員 4 人、運航乗務員 2 人が搭乗し、07 時 20 分に離陸しました(報告書の時刻はすべて UTC)。 07 時 33 分ごろ、気圧高度約 17,300 フィートを上昇中に大きな音がし、機内は凝結した霧で満たされました。操縦室左側の風防がなくなっていました。機長は窓枠から吸い出され、頭と上半身が機外に出ていました。客室乗務員の一人が操縦室に駆け込んで腰を抱え、パーサーが加勢しました。その後交代した別の客室乗務員が両脚をつかみ、着陸後まで足首を握り続けました。 副操縦士は一人で機体を操縦して緊急降下し、07 時 55 分にサウサンプトン空港に着陸しました。機長は右腕と手首、左親指を骨折し、打撲、凍傷、ショック状態でした。ほかに客室乗務員一人が腕に切り傷と打撲を負い、それ以外に負傷者はいませんでした。
なぜ風防がまるごと外れたのか。報告書 1.6.3 が取り付け方を説明しています。One-Eleven の操縦士用風防は「プラグ」式ではありません。プラグ式の窓は内側から取り付けられ、客室与圧が窓を窓枠に押し付けます。 この風防は機外から取り付けられ、90 本の皿頭ボルトで外側から固定されていました。報告書によれば、ボルトの本数が多いのは与圧空気がシールから漏れないようにするためで、内圧に耐えるだけならはるかに少ない本数で足ります。 参考として、報告書が示す胴体の差圧は、35,000 フィートで客室高度 8,000 フィートを保ったときの 7.5 psi(当サイトの換算で約 52 kPa)です。事故時の実際の差圧は、報告書に直接は示されていません。
つまり、風防の固定は主にボルトと窓枠内側のナットに頼っていて、ボルトの頭が皿穴を介して風防が外へ動くのを止めています(受け持ちの経路についての当サイトの簡略な説明です)。窓枠に 1 本の古いボルトが残っていて、その皿頭は風防を貫いて抜けていました(1.3)。 この風防は 6 月 8 日から 9 日にかけての夜勤で、9 日未明に交換されたもので、事故便の約 27 時間前です。事故便は交換後の最初の飛行でした。ボルトに何が起きたかを知るには、まず部品番号を見ます。
三つの部品番号は、末尾 2 文字だけが違う
風防はその後、オックスフォードシャーのチョルシー(Cholsey)付近で見つかりました。1.12.1 によれば、90 本のボルトのうち 11 本は風防に残り、18 本は近くに散らばり、1 本は窓枠に残っていました。報告書は続けて、風防とともに回収されたボルトを新品の A211-8C 26 本と再使用された古い A211-7D 4 本、計 30 本に分類しています。ただし直前の場所別の内訳では、風防に残ったものと近くで見つかったものは 29 本で、この 1 本の差について報告書は説明しておらず、この記事ではそのまま記します。 一方、図解部品カタログ(Illustrated Parts Catalogue、IPC)が指定しているのは A211-8D です。報告書は三つの仕様を並べています。
| 部品番号 | 軸長 | 直径 | ねじ | 今回の役回り |
|---|---|---|---|---|
| A211-8D | 0.8(約 20.3) | 0.1865〜0.1895(約 4.74〜4.81) | 10 UNF | IPC の指定 |
| A211-8C | 0.8(約 20.3) | 0.1605〜0.1639(約 4.08〜4.16) | 8 UNC | 84 本取付け |
| A211-7D | 0.7(約 17.8) | 0.1865〜0.1895(約 4.74〜4.81) | 10 UNF | 6 本取付け(古いボルト) |
報告書が挙げたこの三つの部品番号では、数字は軸長に、英字は直径とねじに対応しています。8D と 8C は長さが同じで一つ細く、8D と 7D は太さが同じで 0.1 インチ(約 2.54 mm)短い。 報告書の結論 (viii) は二つの誤りを並べて書いています。84 本の A211-8C は直径が規定より約 0.026 インチ(約 0.66 mm)小さく、6 本の A211-7D は直径は正しいが 0.1 インチ短い。90 本の中に A211-8D は 1 本もありませんでした。
短い 6 本には前史があります。調査官は作業区域から外された古いボルト 80 本を回収し、そのうち 78 本が A211-7D、A211-8D は 2 本だけでした。古い風防は 4 年前、同機がまだ英国航空のものではなかったときに取り付けられています。 つまりそれまでの 4 年間、この窓は主に 0.1 インチ短いボルトで固定されていました。それまでの使用について、報告書 2.2.1 は A211-7D を「誤りだが、十分であることは実証されている」(incorrect but demonstrably adequate)と表現しています。 短いボルトでなぜ足りたのか。1.17.4.2 に手がかりがあります。外側コーナーポストのフェアリングは 1 枚多く挟むため A211-8D が必要で、風防全体にも A211-8D が指定されていました。そのため窓枠に直接付いたナットの大半の位置では、A211-8D を使うとナットの下におよそ 5 山が見えていました。 これが、0.1 インチ短いボルトでも多くの位置でナットにかかっていた理由かもしれない、というのは当サイトの推測です。報告書は箇所ごとのかみ合いや安全余裕を検証していません。
太さのほうは話が違います。0.026 インチの差は、直径 5 mm に満たないボルトでは、まるまる一つのサイズ段階の差です。次の問いは、一つ細いのに、なぜねじ込めたのかです。
一つ細いのに、なぜねじ込めたのか
ボルトがねじ込まれる相手は、窓枠の内側にある 10 UNF の「Kaylock」フローティング・アンカーナット(floating anchor nut)です。報告書 1.17.4.2 はその自己ロックの仕組みを説明しています。自己ロックは、ナットの一部がボルトを入れる前は楕円形であることによります。当サイトの理解では、ボルトを入れるときにこの部分の変形抵抗に打ち勝つ必要があります。 鍵はピッチです。報告書は A211-8C を「一つ細いが、ピッチは同じ」と書いています。ユニファイねじのサイズ呼びでは、#8 の並目(UNC)と #10 の細目(UNF)はどちらも 1 インチ 32 山、つまり #8-32 と #10-32 です。この対応は当サイトが呼び方から補ったもので、報告書は「ピッチが同じ」としか書いていません。
このボルトと Kaylock ナットの組合せで、一つ細いボルトがかみ込めることを報告書は確認しています。#8 並目のボルトが #10 細目のアンカーナットに入った、ということです。ただし、かみ込めることは規格どおりのねじのはめあいを意味せず、後の試験では低いトルクで滑っています。報告書 1.16.1 はもう一文を書き添えています。航空機によく使われる 4 番並目から ½ インチ細目までの範囲には、ピッチが近い隣り合ったサイズの組が三つあり、小さいほうが一つ大きい Kaylock ナットにかみ合えます。 どの三組なのか報告書は挙げておらず、この記事でも挙げません。
当サイトの別の記事は、別の取り違えを扱っています。#10-32 を M5×0.8 のナットにねじ込む場合で、ピッチの差は 1 山あたり 0.00625 mm です。その記事は公差と短いナットの条件から、合わないねじが目立って引っかからずに入ってしまうことがあると見積もっています。 二つの例に共通するのは、「ねじ込める」ことがピッチ、直径、ねじのはめあいが規格どおりであることの証明にならないという点です。5390 便の 84 本はさらに、ねじ込めるボルトが締まるとは限らないことを示しています。
ドライバーは 20 lbf in に設定、事故後の試験で滑りは平均 4.7
では、締めるときにトルク工具は警告しなかったのか。それに答えるには、まず一つ細いボルトがこの種のナットでどこまでトルクを受けられるかを知る必要があります。英国航空は調査中に模擬試験を行いました(1.16.1)。
| 試験 | 本数 | 結果(lbf in) |
|---|---|---|
| ナット 24 個の試験片、8 UNC ボルト | 20 本 | 1〜7 で滑り |
| 同じ試験片で、正しい 10 UNF ボルトがロック機構にかみ込むのに必要なトルク | 4 本 | 10〜11 |
| AAIB 立会い、実機の窓枠、A211-8C | 32 本 | 0〜12 で滑り |
| G-BJRT から外したナット、8 UNC ボルト | 10 本 | 0〜6 で滑り |
| 8 UNC の 3 試験の合計 | 最大 12(約 1.36 N·m)、平均 4.7(約 0.53 N·m) |
整備マニュアルの要求と比べてみます。ボルトは 15 lbf in(約 1.7 N·m)で締め、100 飛行時間後に 5 lbf in で再締めします。交換した作業者は、再締めのときに 3 回転も緩んでいるボルトが多いという自分の経験から、初回の締付けを自分の判断で 20 lbf in(約 2.3 N·m)に上げました。 言い換えると、平均の滑りトルクは彼の設定値の約 24%、マニュアル値の約 31%(当サイトの換算)で、試験の最大値 12 でもマニュアルの 15 に届きません。報告書 2.2.1 は、これらの 8 UNC ボルトではドライバーの作動トルクに一度も達しなかったと明記しています。 対照として、正しい 10 UNF ボルトがナットのロック機構にかみ込むのに要したトルクは 10〜11 lbf in、取り違えた 8 UNC ボルトの 3 試験合計の平均滑りトルクは 4.7 lbf in でした。
設定値に達していないのに、作業者はなぜ気づかなかったのか。報告書 1.16.2 は二つのことを見つけています。一つは、同種のトルク制限ドライバーで試すと、5 lbf in のような低い設定では、クラッチが滑る手応えと、8 UNC のねじが 10 UNF のアンカーナットの中で滑る手応えが区別できなかったことです。15 に設定すると、作動時のカチッという感触がはっきりしました。 もう一つは、事故後に調べた当夜の 1 本の作動後の残留摩擦が高かったことです。報告書は 20 の設定で典型的に約 7 lbf in と記録し、別に設定値の約 30% とも述べています(二つの概数は完全には一致せず、7÷20 は 35%)。通常は 5〜10% だと報告書は書いています。原因は組立てに使われた旧仕様のグリースの劣化で、正しいグリースで組み直すと正常に動きました。 報告書は、残留トルクは設定値に達した後にしか生じず、ドライバーが何トルクで作動するかには影響しないと補足しています。影響したのは手応えのほうで、2.2.1 は、このドライバーが設定値に達したときの「切れ」は鋭くなく、正常なドライバーよりねじ山の滑りに近く感じられた可能性があるとしています。
本来なら見えていた合図がもう一つあります。この種のトルク制限ドライバーでは、作動するとビットとボルトは止まり、グリップだけが回ります。ねじ山が滑っていると、ビットとソケットは回り続けます。 当夜使われた 12 角(bi-hexagonal)ソケットにはばねクリップがなく、ビットが抜け落ちるため、作業者は左手でビットを押さえていましたが、その手がちょうどボルトの頭を隠していました。作業台の位置も悪く、機首越しに身を乗り出し、手すりの外で作業していました。報告書は、こうした条件のため、彼はねじ山の滑りを見られる位置にいなかったとしています。
工具についても当夜は手順から外れていました(1.17.4.2)。格納庫には校正済みの 5〜120 lbf in のダイヤル式トルク・レンチがありましたが、当夜は工具板になく、しかも再締めの 5 lbf in は測定範囲の下端にあたるため適さないとされていました。 倉庫の主任が自分の判断でロンドンから取り寄せた、風防交換用のトルク制限ドライバーは、届いた時点で校正期限が切れていて使用許可が出ていませんでした。代わりがない中で、倉庫係が求めに応じて 20 に設定して作業者に渡し、作業者は 2 台のトルク・チェッカーで設定値を確かめました。 報告書は 2.2.1 で「管理されていないトルク制限ドライバーを校正室の外で設定した」ことを、会社基準に従わなかった事項の一つに挙げています。
小さなボルトには部品番号がなく、身元は包装にある
トルク工具は誤りを止めませんでしたが、誤りそのものはもっと前の段階、ボルトを選ぶところで起きていました。その出発点は、このボルト自体が身元を持っていないことです。 報告書 1.17.1.1 によれば、A211 の英国規格は、規格番号とボルトの部品番号をボルトには表示せず、包装のラベルにはっきり表示するよう定めています。1.17.4.2 も、これらのボルトは頭が小さいため個別の識別表示がないと書いています。 1.17.3.5 はバーミンガムの汎用部品(Aircraft General Spares、AGS)について説明しています。ふつうは 100 本入りの透明な袋で届き、袋にはラベルか、コンピューターで印字した品名とバーコードがあり、引き出しにも袋のラベルが残っていることが多かった。 しかし報告書は、これらの部品がいったん包装から出ると、測定する以外に何であるかを見分ける方法はないと書いています。
その夜、ボルトはこう選ばれました(1.17.4.2)。外したボルトは「状態に応じて交換」(on condition)の部品で、塗料を詰めた頭のいくつかは取り外しの際に傷み、いくつかは腐食していたため、作業者は全部を新品に替えることにしました。 IPC はマイクロフィッシュの読取機で見られましたが、彼は部品番号の確認に使わず、英国航空の在庫システム TIME で在庫と保管場所も確かめませんでした。外したものが正しいボルトだと確信していたし、IPC で番号を探すのは時間がかかりすぎる、というのが彼の説明です。 彼は外したボルトを 1 本持って格納庫の回転棚へ行き、いくつかの引き出しを見比べて正確に同じものを見つけ、引き出しの出庫票から部品番号 A211-7D を読み取りました(見分けたのは外したボルトで、取り付けるべき部品番号ではありません)。勤続約 16 年の倉庫主任は、この風防には A211-8D を使うと伝えましたが、強くは言いませんでした。 A211-7D の引き出しには 4〜5 本しかなく(最低在庫は 50 本)、彼は外したボルトを持って、車で別の場所、International Pier の下にある無人の回転棚へ向かいました。
その棚の引き出しには部品番号が表示されていましたが、ラベルは古く色あせていました。照明は暗く、引き出しに手を伸ばすには棚と光源の間に体を入れる必要がありました。報告書によれば、彼はこの時点で外したボルトの部品番号を知っていたのに、引き出しのラベルを識別に使わず、ボルトを並べて見比べ、同じだと思ったものを選びました。 ボルトを選ぶとき、彼は自分の老眼鏡をかけていませんでした。眼科の検査では、小さな文字を読むには眼鏡が必要とされています。報告書は、眼鏡をかけていなかったことで当夜の誤りの大半は説明できないものの、視力に頼る手順の一部を無意識に省かせた可能性はあると判断しています(2.2.6.3)。
調査官は後に、この無人棚の 408 個の引き出しを数えています(1.17.3.5)。
| 状態 | 引き出しの数 |
|---|---|
| ラベルなし、中身なし | 46 |
| ラベルなし、在庫あり | 25 |
| ラベルあり、中身なし | 68 |
| ラベルあり、在庫あり | 269 |
| うち中身の大半がラベルどおり | 251(すべてラベルどおり 163) |
| うち中身の大半がラベルと違う | 18(まったく違う 9) |
これに対し、格納庫にある 2 台、倉庫係が管理し、TIME システムにつながり、引き出しに位置コードが付いた棚では、中身が違う引き出しは見つからなかったと報告書は書いています。無人棚の問題は一部の人が非公式に指摘していましたが、英国航空の品質不具合報告(QMDR)には記録がありませんでした。
この表は「棚のせいだ」と読まれやすいのですが、報告書はそう読んでいません。2.2.3.1 は当時の状況として、無人の汎用部品棚は航空整備で認められた必要な方式で、小さな部署は専任の倉庫係を置く余裕がほとんどなく、良い作業慣行に頼るしかないと書いています。 作業者は棚に行く前から探す部品番号を知っていたので、区分け、ラベル、照明が悪かったとしても、ボルトの選び間違いは棚の仕組みでは説明できない、というのが報告書の判断です。言い換えると、この事例では、新旧の部品の照合がラベルと IPC による確認に取って代わったため、ラベルは役に立ちませんでした。
IPC そのものにも落とし穴がありました(1.17.4.2)。528 型の IPC のページには操縦士用風防と隣の直視窓(DV window)が描かれていますが、ボルトは 1 本しか描かれておらず、それは直視窓用の A211-7D でした。風防のボルトは本文の「attaching parts」に A211-8D として載っています。 報告書によれば、510 型の IPC は正しいボルトをはっきり示していました。古い風防に付いていた 78 本の A211-7D は、図に描かれていたほうの種類です。
彼はさらに、外側コーナーポストのフェアリングには長いボルトが要ると考えて A211-9D を 6 本持っていきましたが、取り付ける段階で長すぎると気づき、外した古い A211-7D の 6 本を付け直しました。 報告書は別の箇所で、新しく持ってきた A211-8C と外した A211-7D の長さの差は 0.050 インチ(約 1.27 mm)以内と記していますが、この長さと表の軸長(0.8 と 0.7 インチ)との対応は説明していません。長さが近いことが並べて比べたときの識別を難しくした可能性がある、というのは当サイトの推測です。報告書が確認しているのは、この照合で直径の取り違えが見抜けなかったことです。
取り付けた後にも、気づける機会はいくつかあった
間違ったボルトをねじ込んだ後も、まったく見えなかったわけではありません。報告書 1.17.4.2 と 2.2.1 は、見過ごされたり無視されたりした手がかりを挙げています。この記事では、組立ての見た目や手応えに直接関わる四つを取り上げます。
- 皿頭が皿穴を埋めていない。風防はプライマー塗装で皿穴が開いていました。A211-8C の頭は A211-8D より小さく深く沈むので、埋まらない皿穴が輪のように残り、観察条件が良ければ見分けやすいと報告書は書いています。
- 中央の柱の両側で頭の深さが違う。中央の柱のところでは、右側風防の正しいボルトの頭が皿穴を埋めていて、左側の新しいボルトのすぐ隣にありました。塗装されていても、通常なら違いは分かります。
- フェアリングの新旧ボルトで手応えと皿頭が違う。外側コーナーポストのフェアリングを古い A211-7D 6 本で取り付けたとき、到達したトルクも頭の沈み具合も新しいボルトと違うことに、彼は気づきませんでした。報告書 2.2.1 は、設定のときとフェアリングの取付けのときにはドライバーの作動トルクに達していたと指摘しています。
- 翌晩、もう 1 枚交換した。次の夜に彼が交換したのは右側の風防で、使われていたのは A211-8D でした。前夜に A211-7D を使ったことを覚えていた彼は、二つの機体の改修状態が違うのだと解釈しました。
事故後の機隊点検は、部品番号の誤りがこの 1 機にとどまらないことを別の方向から示しました(1.16.3)。直径の問題がまだ確認される前に、英国航空は全 One-Eleven に対し、次の飛行の前に左右の 1 番風防のボルトを 4 本に 1 本外して長さを確かめるよう指示しました。 英国航空の機隊では 2 機が不合格で、短いボルト(A211-7D)が計 41 本、別の航空会社の One-Eleven 4 機のうち 2 機も不合格で、短いボルトが計 107 本ありました。 細いボルトの問題が確認された後、英国航空はボルト頭の直径を 100% 目視で点検しました。一つ細いボルトの頭は面積が 27% 小さいことを利用したもので、この頭部直径の点検では全機が合格しました。
この点検自体が締結部品の識別の手本になっています。今回の長さの点検はボルトを外して行い、直径は取り付けた状態で頭の大きさからふるい分けました。つまりこの事例では、A211-8C の誤りは取り付けた後でも見えたはずで、独立した検査はそれを止められた可能性のある防護の一つでしたが、その夜にはありませんでした。報告書は同時に、部品選定、手順、工具、監督の問題も指摘しています。
報告書は原因をどこに置いたか
一つ細いボルトが見分けられるのなら、その夜なぜ誰も見なかったのか。報告書は独立した検査と管理監督の欠如を重要な要因とし、作業者の部品選定と締付けの方法も分析しています。1.17.1.2 によれば、英国の耐空性要件は操縦系統の整備に二重検査を求め、1985 年 9 月には「バイタル・ポイント」(Vital Point)、つまり単一の組立て誤りが大惨事につながりうる箇所の二重検査も加えました。 しかし民間航空局(CAA)の解釈では、この語は単一の箇所、たいていは操縦系統を指し、多数の締結具で固定された構造は含みません。さらに、最大離陸重量が 5,700 kg を超え、1986 年 1 月 1 日より前に発行された型式証明に基づいて製造された機体は、バイタル・ポイントの定義を必須としない扱いができ、One-Eleven はそこに含まれていました。風防交換はバイタル・ポイントではなく、二重検査はありませんでした。 与圧殻を作業した後の客室与圧点検は、CAA も求めておらず、整備マニュアルにも入っていませんでした。報告書の結論 (xi) は、独立した最終検査があれば、この誤りを見つける可能性は高かったと書いています。
報告書 2.2.2 は、この風防が一連の誤りを「受け入れてしまう」唯一の重要部品だった可能性があるとし、その理由を六つ挙げています。うち二つは完全に締結部品の話です。直径の違うボルトがアンカーナットにかみ合ったのは、ピッチが同じだったから。そしてこのボルトは、部品番号がなければ手に入らない専用品ではなく、無人の棚から取れる汎用品だったから。 ほかの部品であれば、ボルトの選び間違いは取付けの時点ではっきり分かったか、故障がこれほど明白で激しい形にはならなかったかもしれない、と報告書は考えています。
第 3 章 (b) は寄与要因を三つ挙げています。安全上重要な作業がバイタル・ポイントとされず、一人が行って品質の全責任を負い、この取付けが旅客便で離陸するまで試験されなかったこと(作業記録の機能点検は風防の加熱系統のものです)。作業者の作業品質が、注意不足、良くない作業慣行、会社基準の不遵守、不適切な工具の使用によって損なわれ、報告書はそれを長期的な手順不遵守の表れと判断したこと。 英国航空の現場管理、製品サンプリング、品質監査が、シフト整備マネージャーの作業方法を直接見ていなかったため、彼が用いていた不十分な作業基準に気づかなかったこと。報告書は安全勧告を計 8 件出しており、その中には、完了後に機能点検なしで使用に戻される安全上重要な作業に自己認証(self certification)が適しているかを CAA が検討すること、処方のある人が航空整備作業で矯正眼鏡を使う必要性を CAA が認識すべきことが含まれます。
締結部品の側から持ち帰れる四つのこと
以下は当サイトの読み方で、AAIB が締結部品の使用者に向けて出した勧告ではありません。
- 個別の表示がない小さなねじの身元は、主に包装と記録にある。A211 規格は部品番号をボルトに表示しないと明記しており、報告書も包装から出た部品は測定でしか識別できないとしています。頭に表示が入らない小さなねじでは、包装のラベルと部品番号の記録が主な身元の手がかりで、袋を開ける、小分けする、引き出しをまとめる、といった作業はどれも身元を失いうる工程です。仮の場面として、同じ引き出しに一つ違いのサイズのねじが混ざったとします。見た目で選べば、この夜のように見た目の照合で取り違える危険を繰り返すおそれがあります。
- 部品番号は文書に戻って調べ、古い部品に戻らない。外したねじで照合すると、分かるのは「前回何が付いていたか」です。この機体に前回付いていたのは主に 0.1 インチ短い A211-7D でした。部品番号は図面、部品カタログ、仕様書から調べます。当サイトのメートルかインチかの記事の結論と同じで、付けるべき部品番号は文書が決め、測定は手元の部品の確認に使います。古い部品を測ることで部品番号の確認を代えることはできません。
- 隣り合うサイズのピッチが同じなら、ねじ込めることは証拠にならない。#8-32 と #10-32 はピッチが同じです(1 インチ 32 山は当サイトが呼びから補ったもの)。この事例では細いほうが一つ大きいナットにかみ込みましたが、試験では低いトルクで滑っています。この種の取り違えは直径か頭の寸法でふるい分けられ、事故後の機隊点検も頭の直径を使っています。ただし、それで長さやほかの仕様まで確認できるわけではありません。
- トルク工具の作動は、部品が止まったかどうかと一緒に見る。報告書の試験では、同種のドライバーを 5 lbf in に設定すると、作動とねじ山の滑りの手応えを区別できませんでした。この事例のドライバーでは、ビットとソケットが回り続けるかどうかが見分けの手がかりです。ただしこれは補助的な手がかりで、部品番号、寸法、規定の手順による確認の代わりにはなりません。トルクの読みが何を表すかは規定トルクで締めても、締付け力が合っているとはかぎりません、自己ロックナットのプリベリングトルクの読み方はデータシートのプリベリングトルクは上限を参照してください。
この記事が言えないこと
この記事は安全と締結部品の識別を考えるために報告書の分析を伝えるもので、個人の過失や法的責任を独自に判断するものではありません。報告書の原本はスキャン画像なので、当サイトは光学文字認識でテキスト化し、この記事で使った主要な数値をページ画像と照合しました。報告書自体に、数字が完全には合わない箇所が二つあり(回収したボルトの本数、残留トルクの 7 lbf in と 30%)、この記事ではそのまま記して注記しています。 報告書は 8 UNC のおねじと 10 UNF のめねじのねじ山の重なりやかみ合い山数を示しておらず、当サイトも引用できるねじ規格の原文を読んでいないため、一つ細いボルトが「どれだけ深くかみ合ったか」は計算しません。報告書は Kaylock ナットの詳しい型番やプリベリングトルクの規格を示しておらず、この記事でも推定しません。A211 規格の要求は報告書の記述に基づくだけです。 報告書の付録は別ファイル(付録 E が皿穴内のボルト頭の比較写真)で、この記事では直接見ておらず引用もしていません。安全勧告に対する CAA の回答(FACTAR 1/92)も読んでいません。事故時の実際の差圧は報告書に直接示されていないため、35,000 フィート、客室高度 8,000 フィートの条件での 7.5 psi だけを引きました。 インチとミリ、lbf in と N·m の換算、および 24% と 31% は当サイトの計算で、27%、30%、5〜10% は報告書の数字です。「1 インチ 32 山」はユニファイねじの呼びから補ったもので、「同じ引き出しに一つ違いのサイズのねじが混ざる」は仮の場面です。報告書には航空管制の対応の分析もありますが、締結部品の分析の範囲外として扱っていません。
この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。
よくある質問
英国航空 5390 便の風防はなぜ吹き飛んだのですか?
英国 AAIB の報告書 1/92 によれば、事故の前日未明(約 27 時間前)にこの風防を取り付けた 90 本のボルトのうち 84 本は A211-8C で、規定の A211-8D より直径が約 0.026 インチ小さく、残る 6 本は直径は正しいものの 0.1 インチ短い A211-7D でした。風防は機外からボルトで固定されていて、客室与圧が外へ押す力に固定が耐えられず、約 17,300 フィートを上昇中に吹き飛びました。
一つ細いボルトが、なぜナットにねじ込めたのですか?
この事例の組合せでは、ピッチが同じだったからです。報告書は A211-8C(8 UNC)を A211-8D(10 UNF)より一つ細いがピッチは同じと書いています。以下は当サイトの補足で、報告書は山数を挙げていませんが、ユニファイねじの呼びでは #8-32 UNC と #10-32 UNF で、どちらも 1 インチ 32 山です。報告書はさらに、航空機でよく使う 4 番並目から ½ インチ細目までの範囲に、ピッチが近い隣り合ったサイズの組が三つあり、小さいほうが一つ大きい Kaylock アンカーナットにかみ合えると指摘しています。
トルク・ドライバーを設定していたのに、なぜ締まっていないと分からなかったのですか?
事故後の 8 UNC の 3 試験の合計で、平均滑りトルクは 4.7 lbf in、最大 12 でした。報告書は、実際に取り付けた 8 UNC ボルトも設定の 20 lbf in に達しなかったと判断しています。同種のドライバーを 5 lbf in に設定するとクラッチの作動とねじ山の滑りの手応えを区別できず、当夜のドライバーは作動後の残留摩擦が高めでした。ただし残留摩擦は設定値に達してから生じるもので、影響しうるのは、ドライバーの設定時やフェアリングの取付け時に作業者が得た比較の手応えです。報告書は、ビットとソケットが回り続けることが見分けられる違いだとしていますが、作業者の左手がちょうどボルトの頭を隠していました。
頭に表示のない小さなボルトを取り違えないにはどうすればよいですか?
報告書によれば、A211 規格は部品番号をボルトではなく包装のラベルに表示すると定めており、報告書が述べるこれらの部品は、包装から出ると測定でしか識別できません。当サイトの読み方としては、部品番号は図面や部品カタログで調べ、古い部品の照合だけに頼らないこと、包装とラベルを残し引き出しを混ぜないこと、隣り合うサイズのピッチが同じときは直径か頭の寸法を確かめることです。事故後の機隊点検も頭の直径を使っていて、一つ細いボルトの頭は面積が 27% 小さいものでした。
参考資料
- Air Accidents Investigation Branch(1992)Aircraft Accident Report 1/92: Report on the accident to BAC One-Eleven, G-BJRT over Didcot, Oxfordshire on 10 June 1990
- これはメートルかインチか:ピッチでは #10-32 と M5 を見分けられません
- 規定トルクで締めても、締付け力が合っているとはかぎりません
- データシートのプリベリングトルクは上限であって、足す数字ではない
- あの「1000 本」の箱は、数えたのではなく量ったものです
- 周方向の荷重は本来リベットを通らなかった:アロハ航空 243 便の胴体重ね継手は設計上、接着で荷重を伝え、はく離すると荷重は 3 列の皿リベットに移った。0.036 インチ外板の皿穴の底はナイフエッジになっていた
この記事は AAIB 報告書 1/92 の本文(スキャン画像を光学文字認識でテキスト化し、ページ画像と照合)に基づいています。ページは報告書の印刷ページです。飛行の経過は 1.1(pp.3–4)、取付け方式と差圧は 1.6.3(p.7)、ボルトの仕様と古いボルトの前史は 1.12.1(pp.12–13)、滑り試験とトルク・ドライバーの検査は 1.16.1・1.16.2(pp.14–16)、機隊点検は 1.16.3(p.16)、部品番号をボルトに表示しない規定は 1.17.1.1(p.16)、バイタル・ポイントと与圧点検は 1.17.1.2(p.17)、棚の点検は 1.17.3.5(pp.26–27)、ボルトの選定と締付けの経過は 1.17.4.2(pp.30–34)、眼鏡は 1.17.6(pp.36–37)と 2.2.6.3(p.49)、分析は 2.2(pp.40–42)、結論と寄与要因は第 3 章(pp.52–54)、安全勧告は第 4 章(p.55)です。報告書の付録と CAA の回答は直接引用していません。インチとミリ、lbf in と N·m の換算、および 24% と 31% は当サイトの計算で、27%、30%、5〜10% は報告書の数字です。「1 インチ 32 山」はユニファイねじの呼びから当サイトが補ったものです。「締結部品の側から持ち帰れる四つのこと」は当サイトの読み方で、報告書の勧告ではありません。
お問い合わせ
生産ラインに見た目が近く一つ違いのサイズのねじがある場合は、お見積りの際に必要な包装方法とラベルの内容(たとえば袋ごとに表示する部品番号と仕様)もお知らせください。その条件で対応できる包装と表示の選択肢を確認してお返事します。どの箇所に独立した検査や取付け後の確認が必要かは、用途、適用される要求、品質手順に応じて責任部署が確認するものです。
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