締付けトルクの数字は、等級から出てきたもので、接手から出てきたものではない
r/AskEngineers に、8.8 を頼んだはずの箱を開けたら 12.9 が入っていた、という投稿がある。その会社は接手ごとにトルクを決めるのではなく強度区分ごとに決めており、同じ M12 に二つの数字が用意されていた。95 N·m と 160 N·m。強いほうのボルトを低いほうの値で締めて問題が出るか、というのが質問だった。スレッドの答えはよかった。95 と 160 がどこから来た数字なのかは誰も聞いておらず、そちらのほうが役に立つ問いである。
二つの数字と、その背後にある一つの規格
ISO 898-1 は、強度区分ごと・ねじ径ごとに保証荷重を表にしている。 規定された試験のなかで、測定できる永久ひずみを出さずに受け持たなければならない 軸方向の力で、計算は単純に、呼び応力断面積にその区分の保証応力を掛けたものである。 M12 の応力断面積は 84,3 mm²、Table 5 は次の値を与える。
| 強度区分 | 保証応力 Sp,nom | M12 の保証荷重 | その図面のトルク |
|---|---|---|---|
| 8.8 | 580 MPa | 48 900 N | 95 N·m |
| 10.9 | 830 MPa | 70 000 N | — |
| 12.9 | 970 MPa | 81 800 N | 160 N·m |
トルクと軸力の関係は T = K · d · F の形で書かれ、 d は呼び径、K は摩擦とねじ形状に関わるものをまとめて引き受ける。 それぞれのトルクを d · Fp で割ると、 何が落ちてくるか。
| 区分 | T | d · Fp | T /(d · Fp) |
|---|---|---|---|
| 8.8 | 95 N·m | 587 N·m | 0,162 |
| 12.9 | 160 N·m | 982 N·m | 0,163 |
一つの定数が、二つの数字をどちらも 1 % 以内で復元する。 この定数は摩擦係数ではない。その表が置いた摩擦の仮定に、 保証荷重のうち何割を狙うかという利用率を掛けたものであり、 二つの数字からその二つを分離することはできない。 大事なのは、一つの値が両方の行を覆っているということである。
比のほうは、仮定を一つも置かずに済む
160 / 95 = 1,684。M12 における 12.9 対 8.8 の保証荷重比は 81 800 / 48 900 = 1,673、呼び耐力の比は 1 080 / 640 = 1,688。二つのトルク値の差は強度区分そのもので、 それ以外は何も違わない。
ここは当てはめを必要としない。比のなかでは K が消え、利用率が消え、 径も消える。その表がどんな仮定を使っていたとしても、 二つの行で使われたのは同じ仮定なので、95 と 160 のあいだで動いたのは 頭部に刻まれた数字だけである。
はっきり書いておく価値がある。その計算に接手は入っていない。 材質も、つかみ長さも、被締結体の剛性も、受け持つ荷重も入っていない。 強度区分で引くトルク表は、締結体がどれだけ受けられるかの表であって、 それが接手に必要な量として使われている。
だから入れ替えても安全で、その理由のほうが本題になる
同じ表面、同じ潤滑の条件で 12.9 を 95 N·m まで締めれば、 得られる軸力は 8.8 が受け取っていたものとほぼ変わらない。 スレッドのなかに一行でそれを言い当てた投稿があり、51 点が付いていた。 縦弾性係数は両者で同じなので、同じ張力なら伸びも同じである。 焼入焼戻しが動かすのは耐力と引張強さで、剛性は動かない。 その上の投稿が「ばねとしての効き方」が区分で変わるのではと迷っていたが、 この一行で片が付く。そのばねが実働荷重を受けたあとどう振る舞うかは 別に立てておく価値のあるモデルになる。
変わったのは利用率のほうである。95 N·m のとき 8.8 は保証荷重の上に乗っていた。 同じトルクで 12.9 はその六割ほどのところに止まる。このボルトは楽をしている。 それは普通は良いことで、同時にこの答えの居心地の悪い半分でもある。 160 N·m という値もまた接手の要求ではなかった、ということになるからである。 8.8 を 95 で締めて成立していたのなら、12.9 の行は締結体を使い切るために 存在していたことになる。
入れ替えで実際に動く四つ
四つのどれも軸力ではなく、四つとも部品を組む前に確かめておく価値がある。
| 動くもの | どこで効くか |
|---|---|
| 延性 | 同じ表のなかで、最小の破断伸びが 8.8 の 12 % から 12.9 の 8 % へ下がる。一度の締めすぎや衝撃に耐えなければならない接手は、まさに手放したほうの領域を使っている |
| めっき | ISO 4042 の線は区分で引かれている。10.9 未満では補足の検証が要らず、12.9 では検証もベーキングも要る。めっきした 12.9 は管理された工程であって、棚から取る品目ではない |
| めねじ側 | ねじが強くなってもナットやタップ穴が強くなるわけではなく、ねじ側から先に壊れるという設計意図がひっくり返ることがある。原因はタップ穴のほうにある |
| 頭部の表示 | 図面には 8.8 と書いてあり、頭部には 12.9 が刻まれている。技術的な判断がどうであれ、これは受入検査の指摘であり変更記録である |
このうち最初の二つは、そのスレッドの最高票 98 点が挙げていたもので、 書いた人は正しかった。
規格が 12.9 だけに付けている注記
ISO 898-1 の Table 2 は、区分ごとに許される鋼種と最低焼戻し温度を並べている。 12.9 の行にだけ、ほかの区分には付いていない注記がぶら下がっている。 12.9 の採用を考えるときは注意を要するとしたうえで、三つを検討するよう求めている。 締結体製造業者の能力、使用条件、そして締付けの方法である。 最後に、環境によっては、加工したままのものにもめっきしたものにも 応力腐食割れが生じうると添えている。
いま問われていることと並べて読んでほしい。ある人が 12.9 の締付け方法を 変えようとしていて、その理由は頭部の数字が大きいことである。 その数字を供給している規格の側には、まさにその判断を仮定せずに検討せよ、 という一文が付いている。注記は入れ替えを禁じてはいない。 強度区分は見た目ほど無料の格上げではない、ということである。
区分という数字が一度も約束していないこと
ISO 898-1 の第 1 節は、本規格が規定しない性質を五つ挙げて終わる。 そのうち二つは、人が上の区分に手を伸ばすときに買おうとしているものである。
- 溶接性
- 耐食性
- せん断に対する強さ
- トルク/締付け力の特性。試験方法は ISO 16047 に渡されている
- 疲れ強さ
つまり、強度区分で引くトルク表は、その区分を定める規格自身が 「ここは扱わない」と書いている量の上に建っている。 これは非難ではない。その計算は妥当な一次近似で、誰もが使っている。 言えるのは、その数字は表のものであって規格のものではない、ということである。 外れたときに読み違えられていたのは規格ではない。
この二つの除外は、質問の一般形にも答えている。 荷重がボルトに沿ってではなく横切って掛かる接手、 そして繰り返し荷重を受ける接手では、区分を変えてもどちらの向きにも何も報告されない。 同じ軸力のもとで強度区分を跨いで疲れ寿命を比べた発表を探したが、 引用するに足るものは見つからなかった。
この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。
よくある質問
8.8 を発注して 12.9 が届きました。8.8 のトルクで締めてよいですか。
力学的には軸力はほとんど変わりません。トルクは摩擦と形状を通じて軸力になり、そのどの項にも強度区分は入っていないからです。縦弾性係数は同じなので、同じ張力なら伸びも同じです。実際に動くのは四つです。最小の破断伸びが 12 % から 8 % へ下がること、めっきした 12.9 に ISO 4042 がベーキングを要求する一方 10.9 未満には何も要求しないこと、ナットやタップ穴は強くなっていないこと、そして頭部の表示が図面と合わなくなっていることです。最後の一つは、技術的な結論がどうであれ変更記録になります。
同じトルクなら、12.9 のほうが 8.8 より伸びが小さいのですか。
いいえ。焼入焼戻しが上げるのは耐力と引張強さで、縦弾性係数はそのままです。したがって同じ張力なら二つのボルトは同じだけ伸びます。上の区分が買うのは、降伏するまでどこまで伸ばせるかであって、伸ばされることにどれだけ硬く抵抗するかではありません。元のスレッドでもこの点が出ており、正しく答えていたのは二番目の返信でした。
強度区分で引くトルク表の数字は、どうやって出てくるのですか。
通常は、呼び応力断面積にその区分が定める応力を掛け、さらに摩擦の仮定と呼び径を掛けたものです。ここで扱った表では、M12 の 8.8 が 95 N·m、12.9 が 160 N·m で、ISO 898-1 の保証荷重 48 900 N と 81 800 N に単一の定数 0,162 を当てると、どちらも 1 % 以内で再現されます。この定数は摩擦の仮定と利用率の積で、二つの数字からは分離できません。ただし二つのトルクの比のほうは仮定を必要とせず、それは強度区分の比そのものです。
迷ったときは上の強度区分を選んでおくほうが安全ですか。
締結体が受けられる量を上げ、壊れるまでに吸収できる量を下げる選択です。ISO 898-1 の最小伸びは 8.8 で 12 %、12.9 で 8 % です。そして Table 2 は 12.9 にだけ注記を付け、製造業者の能力、使用条件、締付けの方法を検討するよう求め、応力腐食割れに触れています。接手が 12.9 を必要とするところでは必要です。余裕として手を伸ばすと、買えるのは静的な能力で、支払うのは延性です。
ISO 898-1 に締付けトルクは載っていますか。
載っていませんし、そう書いてあります。第 1 節は、本規格が規定しない性質のなかにトルク/締付け力の特性を挙げ、試験方法として ISO 16047 を指しています。疲れ強さ、せん断に対する強さ、溶接性、耐食性も同じ一覧にあります。強度区分で引くトルク表は、規格の保証荷重と仮定した摩擦条件を使って、別の人が規格の上に建てたものです。
参考資料
- ISO 898-1:2013 —— 炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質。第 1 節の除外一覧、Table 2 と 12.9 に付く注記、Table 3 の第 3 行と第 6 行、Table 5 の保証荷重
- ISO 16047 —— 締結用部品のトルク/締付け力試験。ISO 898-1 が規定しない性質について指し示している方法
- ISO 4042 —— 締結用部品の電気めっき皮膜。水素ぜい化対策の区分の境目
- r/AskEngineers —— 出発点になったスレッド。二つのトルク値と、縦弾性係数に触れた返信を含む
ISO 898-1:2013 は公開されているプレビュー PDF から読んだ。プレビューには第 1 節、注記を含む Table 2、Table 3、Table 5 が全文入っており、上に引いた数値はすべてその表から取っている。95 と 160 N·m の組は、名前を挙げられる出版された表から取ったものではない。質問した人が自社の図面にあると書いた値なので、ここでの復元は「どの仮定の組ならこの二つを再現できるか」を示したものであり、その会社が行った計算だと主張するものではない。0,162 は摩擦の仮定と利用率の積であり、二点からは分離できないので、摩擦係数として読んではならない。比の議論はそのどれにも依存しない。疲れについては ISO 898-1 が除外していることだけを書いた。同じ軸力のもとで強度区分を跨いだ疲れ寿命の比較を探したが、引用するに足るものは見つからなかった。
お問い合わせ
強度区分を入れ替える引合いでは、ねじだけでなく相手ねじも一緒にお送りください。 ナットやタップ穴の区分は、接手のなかで勝手には変わらない側であり、 どちらが先に譲るかを決めているのはそちらです。