ポイントのボルトは 250 N·m で締めても保持できるとは限らない:英国グレイリッグ脱線の調査は、ボルト 1 本あたり最低 31 kN の初期軸力が必要で、このトルクでは報告書の取った高摩擦側で 26 kN しか出ず、ナットが約 1/19 回転戻れば軸力はゼロになると見積もった

ボルトが緩んだら、思い浮かびやすいのは締め直すこと、あるいはばね座金を足すこと、緩み止めナットに替えることです。2007 年 2 月の英国グレイリッグ(Grayrigg)脱線の調査は、起点を分岐器の 3/4 インチのボルト一組にたどり、その継手を一つの計算問題として解いてみせました。継手が滑らないには、ボルト 1 本あたり最低 31 kN の初期軸力が必要で、250 N·m で締めても、報告書の取った高摩擦側では 26 kN しか出ない計算になる。試験した同種のばね座金は 0.65 kN でつぶれる。ナットが約 1/19 回転戻れば軸力はすべて失われるのに、報告書が要約した Network Rail の「緩み」の判定は 1/8〜1/4 回転だった。この記事では英国鉄道事故調査局(RAIB)の報告書に沿って、その計算を分解して読みます。継手がどう失効したか、31 kN がどう積み上がるか、250 N·m で実際にどれだけ出るか、軸力の喪失がなぜ判定基準や目視で見つけにくいか、よくある三つの対策が報告書でどうだったか、そして 50 年以上使われてきた非調整式ストレッチャーバーの設計を報告書がどう評価したかです。読了まで約 10 分です。

レール腹部に 2 本のボルトでブラケットが留められ、一方のナットがボルトに沿って戻り、ナットとブラケットの間に見えたねじ部のすき間が赤く示されている。バラストの上にはばね座金が 1 枚ある(模式図)。

最初に失効したのはボルト継手で、起点はボルトの破断ではなかった

まず、締結部品が出てくるところまで事故を説明します。2007 年 2 月 23 日 20 時 12 分、ロンドン発グラスゴー行きの 1S83 列車が 95 mph(153 km/h)でカンブリア州 Lambrigg の 2B ポイントを通過し、9 両すべてが脱線しました。 乗客 1 人が死亡し、乗客 28 人と運転士、もう 1 人の乗務員が重傷を負いました(報告書第 9〜11 段落)。

分岐器には左右に動く 2 本のトングレール(switch rail)があり、数本のストレッチャーバー(stretcher bar、トングレール同士をつなぐ連結棒)でまとめられて一緒に転換します。 2B ポイントには鎖錠用のストレッチャーバーが 1 本と、軌道側のストレッチャーバーが 3 本ありました。軌道側バーの両端にはブラケットがあり、ブラケットは 2 本のボルトでトングレールの腹部に留められています(付録 D)。 報告書第 130 段落は、この軌道側バーとトングレールの締結部品の仕様を明記しています。3/4 インチ Whitworth ボルト、長さ 65 mm、低炭素鋼で BS 3692:2001 の強度区分 4.6 相当(通称 black bolts)、ナットの下に単コイルのばね座金 1 枚。 鎖錠用バーのナットはプリベリングトルク形ナットでした(第 115 段落)。

報告書は、三つの要因がそろって初めて事故になったとし、どれが欠けても起きなかったとしています。第 3 軌道側ストレッチャーバーを右側トングレールに留めるボルト継手の失効、分岐器の残留開口が大きすぎたこと、2 月 18 日の週次目視点検でこのポイントが抜けたことです(第 14 段落)。 この記事は一つ目だけを扱います。報告書の時系列では、1 月 7 日にこの継手はすでに失効して締結部品が完全に外れており、故障対応班が交換用のナットとボルトを取り付けました(第 136、265〜267 段落)。 その後、継手は再び機能を失いました。失効順序の解析では継手の失効が先で、第 3 バー本体の疲労破断は後であり、このバーは 2 月 12 日またはそれ以前に破断していました。残りのバーもその後次々に失効し、劣化は少なくとも 11 日間続いていました(第 16、137〜140、155 段落)。

締結部品の側から最も注目すべきは第 131 段落です。第 3 バーのものを除き、調べた軌道側ストレッチャーバーの締結部品はどれも損傷していませんでした。ボルトにもねじ山にも損傷がないことは、継手が「先に滑り」、その後でナットが戻ったことを示します。 疲労、過荷重、ねじ山のせん断などであれば、ボルトに目に見える損傷が残るはずだと報告書は書いています。第 3 バーの近くで回収されたボルトには損傷がありましたが、報告書はそれを、緩んで穴の中で動き、一部はトングレールと基本レールの間に挟まれた跡と見ています(第 128 段落)。 起点はボルトの破断ではありません。ボルトは折れていないのに継手は失効した。まず報告書が「失効」をどう定義したかを見ます。

まず滑り、次に戻る:報告書による継手失効の定義

報告書はこの種の継手の解析で、滑り(slip)を失効の判定基準にしています(第 141 段落、付録 E 第 3 段落)。継手にかかる荷重が締付け力を上回ると、接合面が離れるか相対的に動く。 いったん滑ると締付け力が下がり、その後はより小さな荷重でも滑るようになり、最後には締付け力が完全に失われる。締付け力がなくなれば、普通のナットは動的条件の下で緩み、自分で回って外れていきます。

RAIB は第 141 段落で、調べたのは最初の失効メカニズムである滑りだけで、ナットが自由に回って外れるようになるまでに何回の荷重がかかるかは調べていないと説明しています。 2007 年 11 月 26 日の 2 回目の緊急安全勧告はもっと直接的です。いったん滑れば振動環境でナットは完全に外れるので、継手は滑った時点で失効とみなす。 滑りを防ぐには、締付け力の各種の損失を見込んだうえで、ボルトの軸力を常に作用荷重より大きく保つ必要がある(付録 P、2 回目の勧告第 11 段落)。

この順序は、当サイトの〈ねじが緩む理由〉で扱った二種類の緩みと対応づけられます。この継手について報告書が推論したのは、締付け力が先に荷重に負け、ナットの回転はその後に起きたという順序です。 そうなると問題は二つの数字になります。この継手に必要な締付け力と、規定の締め方で実際に出せる軸力です。

31 kN は二つの数字の足し算

一つ目の数字は荷重から来ます。報告書第 142 段落によれば、調査の時点でこのストレッチャーバー組立品に使える荷重ケースも設計解析もなかったため、RAIB は Network Rail に計測を依頼しました。 計測したのは 3 組の分岐器で、うち 2 組は同じ幹線上にあり、構成と交通量が 2B に近いものでした。正しく設定された状態(残留開口 1.5 mm、フランジ背面の接触なし)で、 列車通過による第 3 バーの軸力は 80% が 2 kN 未満、20% が 2〜4 kN でした。

第 143 段落は 4 kN のバー力を締結部品に換算し、2 本で均等に分担すると仮定して、継手が滑らないには 1 本あたり 18.5 kN の締付け力が必要だとしています。 この換算の計算式、幾何、接触の摩擦条件は報告書に示されていないので、ここでは推定しません。当サイトの計算を一つだけ示すと、2 本の合計は 37 kN で、4 kN のバー力の約 9.25 倍です。

二つ目の数字はなじみ(embedding)です。完全に滑らかな表面はなく、2 つの部品を締め付けると接触点が微視的に永久に押しつぶされ、部品同士が近づき、ボルトの伸びが減って軸力が下がります(付録 E 第 4〜6 段落)。 報告書は VDI 2230 に基づき、この継手の材料の組合せで表面粗さによるなじみを約 23 µm と見積もりました(第 147 段落)。RAIB は実物のレールとブラケットの試料で 5 つの継手を作り、250 N·m で締めて車輪の通過を模擬する荷重をかけました(ボルト自体の塑性変形を避けるため強度区分 10.8 のボルトを使用)。 すべての塑性変形による継手長さの減少は 50〜200 µm で、これには平面度不良の影響も含まれるため、23 µm はなじみの値として妥当とされました。

第 148 段落:23 µm のなじみで締結部品 1 本あたり 12.5 kN の軸力が失われるので、締付け時の初期軸力は少なくとも 18.5+12.5=31 kN 必要です。 報告書は、ほかの塑性変形による損失は見込んでいないので、31 kN は最低限の要求だと注記しています。

2B ポイントのストレッチャーバー・ブラケット継手:必要な締付け力と 250 N·m に対応する軸力(RAIB 20/2008 第 142〜149 段落、図 28。1 行目はバー全体の軸力、ほかは締結部品 1 本あたり)
項目値出典
フランジ背面接触なしで解析に用いたバー軸力4 kN第 142 段落の実測
4 kN で滑らないための締付け力18.5 kN第 143 段落
なじみ 23 µm による軸力損失12.5 kN第 147、148 段落
締付け時に最低限必要な初期軸力31 kN第 148 段落
250 N·m で得られる軸力(ねじ部摩擦 0.4〜0.1)26〜93 kN第 149 段落、図 28b
200 N·m のときの高摩擦側の計算値21 kN図 28d

250 N·m で出るのは 26〜93 kN

二つ目の問いの答えは第 149 段落にあります。締付けトルクの一部は、ねじ山同士の摩擦と、ナットと被締結部品の間の摩擦に使われます。報告書は鋼部品の摩擦係数の典型範囲として 0.1〜0.4 を取り(付録 E 第 2 段落)、 同じトルクなら摩擦が高いほど軸力は低くなります。250 N·m で計算すると、軸力は 26〜93 kN の範囲に入ります。これは計算値で、事故の継手の現場実測ではありません。高摩擦側の 26 kN は必要な 31 kN より 5 kN 少ない(当サイトの計算)。 報告書の結論は、完全に締め付けても、この継手の締付け力と、通常使用時(フランジ背面の接触がまったくない状態)に受ける力との間に安全余裕は保証できない、というものです。

ねじ部の摩擦はどんなときに高くなるのか。付録 E によれば、ねじ山の状態は一般に再使用と締め直しで悪化し、潤滑や汚れも影響します。第 268 段落はさらに、RAIB が見た例から、 新品であっても故障対応班の車両に保管されている間に表面がさび、ねじ山が汚れていた可能性が高いと記しています。トルクと摩擦の一般的な関係は、当サイトの〈一つのトルク値は、ある摩擦条件の組を前提にしています〉で説明しています。

この継手には比率の面での弱点もあります。なじみの量は接合面の数と表面状態で決まり、ボルトの長さでは変わりません(第 146 段落)。一方、報告書がこの 3/4 インチ Whitworth ボルトについて計算した 250 N·m での伸びは 36〜129 µm にすぎません(付録 E 第 7 段落)。 同じ 23 µm のなじみでも、伸びが小さいほど失われる割合は大きく、報告書は軸力と締付け力の損失を 17〜63% と見積もっています(付録 E 第 8 段落)。 仮の数字で考えると、同じボルトを同じ軸力まで締めるとして、締付け長さが 2 倍なら伸びもおおよそ 2 倍になり、なじみの 23 µm は変わらないので、失われる割合はおおよそ半分になります(仮定。同径・同材料・同じ接触条件での単純化した比較で、被締結部品の剛性の変化は無視。RAIB が検証した結果ではありません)。 第 145 段落が引く米国の工学的指針は、継手長さとボルト径の比を可能なら約 4:1 以上としていますが、このブラケット継手は 1.7:1 でした。締付け長さと緩みの関係は〈長いねじのほうが、継手が強くなることがある理由〉を参照してください。

ここまでは公称設計、つまり接合面が完全に平らな場合です。第 150 段落は、締付け力をさらに下げる実際の要因を挙げています。設計仕様はブラケット接合面の平面度を管理していなかった。 レール底部の上面がブラケットの下面に当たれば局部的に高い面圧が生じる(2B では当たっていなかったが、設計上それが起きないとは保証されていない)。レール腹部の浮き出た圧延刻印(branding)がブラケットの下にあり、2B のブラケット接合面には対応する圧痕が残っていた。 付録 P の 2 回目の勧告第 13 段落はこの点について、刻印は高い面圧を生み、軸力の低下は「significant, but unpredictable」だと書いています。

報告書は逆方向のリスクも確認しています。低い摩擦と規定トルクの組合せでは、4.6 のボルトの応力が弾性限度を超えて永久変形するおそれがある。第 151 段落は 2B ではその可能性は低いとし、理由として、短いスパナで 250 N·m を出すのは難しいこと、 元のボルトの締め直しや交換用ボルトの保管状態から摩擦が十分低かったとは考えにくいこと、ボルトの強度が規格分布の下限近くでなければならないことを挙げています。 まとめとして第 152 段落は、公称設計のままでは、2B に近い構成と交通量の分岐器で生じる使用荷重の全範囲にこの継手は耐えられないと判断しています。ほかの構成について RAIB は解析していません。

ナットが約 19 度戻れば軸力はなくなる:軸力の喪失が見つけにくい理由

必要量と供給量の差は計算で示されました。次の疑問は、軸力が失われても、なぜ見つけにくいのかです(2 月 18 日は点検がこのポイントを抜かしたもので、点検していれば劣化は見えたはずだと報告書は見ています。それとは別の話です)。報告書の答えには二つの層があります。

一つ目は回転角です。第 164 段落と付録 E 第 10 段落によれば、250 N·m で得られる軸力は最大 129 µm のボルトの伸びから来ており、剛な継手ではこの伸びはナットを 1/19 回転させるだけで得られます。 逆に、ナットが 1/19 回転戻れば、伸びも軸力もすべて失われます。角度にすると約 19 度です(当サイトの計算、360÷19)。 一方、第 164 段落は Network Rail の定義する「緩み」を 1/8〜1/4 回転、つまり 45〜90 度(当サイトの換算)と要約しています。報告書はここから、事故後の Network Rail の点検では、軸力を失った締結部品をすべて見つけられたとは限らないと指摘しています。付録 O の各特別点検には、それぞれ別の運用上の定義があります。 日常保守の点検方法のほうは短いスパナでナットをかけてみるもので、「nuts should not move by application of a short spanner」とされていました(付録 I 第 3 段落)。

二つ目は見えないことです。第 170 段落によれば、すき間が現れるのは継手が締付け力をすべて失ってからです。第 3 バーは引張りを受けていたので、ナットがトングレールの戻りを許すところまで戻って初めて、ブラケットとナットの間にすき間が見えます。 ブラケットとレールの間のすき間は、レール頭部に隠れて見えにくい。第 176 段落はさらに、3 か月ごとの保守で締め直していても記録は残らないので、この継手が以前に軸力を失ったことがないとは仮定できないと付け加えています。

事故後の一斉点検では、2B ほど劣化した分岐器はなかったものの、ほかの分岐器でも点検方法の定義で緩みと判定される締結部品が広く見つかりました。Network Rail は特別点検通知 SIN 097 で 1437 組の分岐器を点検し、34.7% で少なくとも 1 本のボルトが短いスパナで回りました(付録 O 第 5 段落)。 RAIB はほかの分岐器で、同様の締結部品のトルクを低いもので 20 N·m と測っています(第 153 段落)。Preston の 671B ポイントでは、2007 年 6 月 24 日の手順に従った点検で緩んだ締結部品 10 本を見つけて締め直し、7 月 3、4 日の再点検で 19 本の締結部品が 150 N·m 以下で回りました。 理論上は 200 または 250 N·m に締め直されていたはずのものです(第 301 段落)。報告書は、締め直しの管理が不十分だったか、締め直し後にトルクが失われたことを示すとしています。

ばね座金、緩み止めナット、締め直し:よくある三つの対策は報告書でどうだったか

冒頭の三つの反応に戻ります。報告書はそれぞれに一段落を割いていますが、測ったのは 2B ポイントの別々の継手です。ばね座金は軌道側バー、プリベリングトルク形ナットは鎖錠用バーの継手に対応します。

ばね座金。RAIB は同種の単コイルばね座金で荷重とたわみの試験を行い、つぶすのに必要な荷重は 0.65 kN で、前述の最低約 31 kN という初期軸力の要求に比べれば、ナットの戻り止めへの寄与は小さいとしました。 報告書は 1980 年代の自動車業界の研究も引き、単コイルばね座金は緩み止めの手段として効果がないとしています(第 165 段落)。

緩み止めナット。鎖錠用バーにはプリベリングトルク形ナットが使われていました。RAIB が右側の、まだ形を保っていた鎖錠用バーの継手を分解するときにトルクを測ると、継手がいったん緩んだ後のこれらのナットの抵抗は普通のナットと同程度でした。 回転抵抗を増やすために偏らせてあるはずのねじ山が変形し、余分な抵抗を生まなくなっていました(第 118 段落)。第 166 段落は、プリベリングトルク形ナットを再使用すると、締付け力が負けた後の戻り止めの効果も下がると補足しています。 データシートのプリベリングトルクが何を表すかは〈データシートのプリベリングトルクは上限であって、足す数字ではない〉を参照してください。

締め直し。事故当時、Network Rail にはねじ締結部品の再使用に関する標準も手順もなく、証言からは再使用が行われていたことがわかります。一般に、再使用はねじ部の摩擦を上げ、同じトルクで得られる締付け力は締め直すたびに減っていくことがあります(第 166 段落)。 締め方そのものも緩められていました。2006 年 4 月までは、保守仕様 SMS PF01 が、締める必要があるときは校正済みのトルクレンチで、ブラケットとレール腹部のナットを 250 N·m に締めるよう求めていましたが、この改訂で義務ではなくなりました。 理由は、トルクレンチがすべての保守要員に行き渡っておらず、線路沿いを歩いて運ぶ工具がすでに多すぎることでした(付録 I 第 4、5 段落)。 1 月 7 日の故障対応班は車両に積んであったナットとボルトを使い、証言によれば 15 または 18 インチのモンキーレンチで締めました。現場にトルクレンチはなく、当時はその要求もありませんでした(第 267 段落)。交換品は新品だった可能性も、中古だった可能性もあります(第 268 段落)。

報告書は二つの時点に分けて、いくつものシナリオを挙げています。2006 年 12 月 17 日の保守については(第 276 段落)、短いスパナで締め切れなかった、締めたが摩擦が高すぎた、そもそも点検していなかった。1 月 7 日に取り付けた締結部品については(第 281 段落)、摩擦が高すぎた、モンキーレンチで軸力が足りなかった、あるいは最初は十分でも荷重、なじみ、レール刻印上の塑性変形、過去の変形と部品の座りのずれによる滑りで失われた。どれが起きたかを判断する証拠はありません。 第 282 段落のまとめでは、1 月 7 日に取り付けたボルトは当時の指針どおりに取り付けられていたのに、継手は失効した。どのシナリオにも共通する根底は、状況が少し変わるだけで失効しうる継手の設計だったということです。

報告書はこの設計をどう評価し、その後何が変わったか

この設計は新しいものではありません。第 30 段落によれば、2B の構造は 35 年以上広く使われてきた標準設計で、Network Rail は報告書の時点で、信号のある路線に約 13,500 組あると見積もっていました。 この非調整式ストレッチャーバーがより古い型式の分岐器に導入されてから、50 年以上がたっていました。第 291 段落は、最初の使用時期は確定できないが第二次世界大戦の直前に使われ始めた可能性が高く、1940 年代に英国鉄道の標準設計になったとしています。 RAIB の判断は、2B と同様の構成の分岐器のこのブラケットとトングレールの継手は設計能力を超える力を受けうるため、分岐器全体が定期的な点検と保守に大きく依存していた、残留開口の設定を誤ればその依存はさらに深くなる、というものです。

これは第 406 段落の観察とも重なります。Network Rail のあらゆる階層で、ストレッチャーバーのボルトを締めることは、保守要員がずっと行ってきた日常的な作業とみなされていました。 報告書の勧告 1 は、非調整式ストレッチャーバー組立品とその継手を改め、通常の運用荷重と想定しうる故障に、安全余裕をもって、人の介入に過度に頼らずに(without excessive reliance on human intervention)耐えられるようにすることを求めています。 荷重ケースには分岐器の構成、交通と線形、そして製造と据付けのばらつきを含めるとしています。勧告 7 は、初回取付けの締め方、その後の点検の仕方、そして所要の軸力を得るのに必要なナットの回転を考慮して、どこからを緩みとみなすかを保守指示に明記するよう求めています。

事故後の変更の後には、追跡点検の結果が一組あります。Network Rail は、contraflexure 構成(分岐の向きと曲線の向きが逆)で線路速度 80 mph 以上の分岐器 115 組のストレッチャーバーをすべて交換し、締結部品を変更しました。 バーとトングレールを留めるボルトを強度区分 8.8 に上げ、ばね座金をやめてナットとボルト頭の下にそれぞれ一対の歯付き緩み止め座金を入れ、別種の金属製プリベリングトルク形ナットに替え、250 N·m を規定し、清浄で損傷のないボルトだけを使う。 初回取付けの 4〜6 週間後にトルクレンチで 250 N·m に締め直し、ナットの回転を示す表示器を取り付けました(付録 O 第 13、14 段落)。 取付けから 2〜5 か月後、そのうち 16 組・322 本のボルトについて、ボルトを固定してナットに 250 N·m をかけて点検したところ、12% が「緩み」と判定されました。定義はナットとボルトの間に何らかの回転があることです(付録 O 第 15 段落)。 これは 250 N·m で回ったという意味で、軸力がゼロになったことと同じではなく、報告書もこれを軸力に換算していません。

規定も変わりました。2007 年 12 月からは、トルクレンチで 250 N·m に締めるのは初回取付け時だけで、その後は短いスパナで締まり具合を確認し、ナットを締めるなど何らかの是正をしたら報告することになりました(第 675 段落)。 2008 年 6 月には、継手が軸方向の引張りを受ける条件での振動下の締結部品の性能試験を委託し、ナットの各種ロック方法を評価しています(第 677 段落)。改訂したストレッチャーバー組立品と締結部品の設計案もありましたが(第 679 段落)、その中身は報告書に記載されていません。

締結部品の側から持ち帰れる四つのこと

以下は当サイトの読み方で、報告書が締結部品の使用者に向けて書いた勧告ではありません。報告書の勧告は Network Rail などに宛てられています。

  1. 荷重があって初めて、トルク値に比べる相手ができる。31 kN は、実測の 4 kN のバー力を締結部品 1 本あたりに必要な 18.5 kN の締付け力に換算し、なじみ損失 12.5 kN を足して出したものです。この種のストレッチャーバーは 50 年以上使われてきましたが、調査の時点で使える荷重ケースも設計解析もありませんでした。その一歩がなければ、250 N·m は締め方の一つでしかなく、足りるかどうかは言えません。軸力管理の精度の一般論は〈あなたの締付け方法は、予荷重をどれだけ外すか〉を参照してください。
  2. なじみ量をボルトの伸びと並べて見る。材料と接触条件が同じなら、なじみ量はボルトが長くなっても増えないので、締付け長さが短く伸びが小さい継手ほど失われる割合が大きくなります。この継手は長さと径の比 1.7:1、計算上の伸び 36〜129 µm に対し、粗さによるなじみの見積もりは約 23 µm でした。
  3. 「緩み」の点検基準は、軸力に必要な回転角と合わせる。報告書が解析したこの継手では、軸力がゼロになるのは約 1/19 回転なのに、第 164 段落が要約した緩みの判定は 1/8〜1/4 回転でした。判定の回転角に達していないことは、軸力が足りている証明になりません。
  4. ばね座金と緩み止めナットは締付け力を補ってくれない。2B ポイントの別々の継手で、試験した同種のばね座金は 0.65 kN でつぶれ、鎖錠用バー継手のプリベリングトルク形ナットは緩んだ後には普通のナットと同程度の抵抗しかありませんでした。これらの結果は、試験した戻り止め部品が継手に必要な締付け力を補えることを示していません。継手が滑るかどうかは、十分な有効軸力しだいです。

このページが言えないこと

RAIB の報告書は責任や過失を判断せず、このページも個人や組織を評価しません。2B の継手の軸力がどの時点で、どのシナリオによって不足または失われたのかは、報告書が複数の可能性を挙げたまま判定しておらず、このページも判定しません。 4 kN を 1 本あたり 18.5 kN に換算した幾何と摩擦係数は報告書に示されていません。ナットが自由に外れるようになるまでに何回の荷重がかかるかも、RAIB は調べていません(第 141、143 段落)。 事故後の 12% の「緩み」は 250 N·m で何らかの回転があったという意味で、軸力が失われた割合には換算できません。2007 年 11 月の 2 回目の緊急安全勧告はブラケット継手を「specified 200 Nm」と書いていますが、 最終報告書(第 147 段落の注 8、第 262 段落、付録 I)はブラケットとレール腹部の締結を 250 N·m、200 N·m はバーとブラケットおよび絶縁継手の値としており、このページは最終報告書に従っています。 角度の換算(約 19 度、45〜90 度)、5 kN の差、37 kN の合計は当サイトの計算で、締付け長さを 2 倍にする例は仮定です。このページが読んだのは報告書 v5(2011 年 7 月)で、改訂表には各版の修正が結論と勧告に影響しないと明記されています。 事故の救助、車両の衝突安全性、死傷の詳細はこの記事の範囲外です。

この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。

よくある質問

グレイリッグ脱線とボルトはどう関係しますか?

英国鉄道事故調査局(RAIB)は、2B ポイントの劣化で最初に起きた失効を、第 3 軌道側ストレッチャーバーのブラケットを右側トングレールに留めるボルト継手だと認定しました。締付け力が通常の交通による力を下回り、継手がまず滑り、その後ナットが戻って外れました。これはどれが欠けても事故にならなかった三つの要因の一つで、残りの二つは残留開口が大きすぎたことと、2 月 18 日の週次点検でこのポイントが抜けたことです。

規定トルクで締めたボルトが、なぜ緩んで外れるのですか?

この継手の例では、2B に近い構成でフランジ背面の接触がないときの解析荷重について、RAIB はボルト 1 本あたり少なくとも 31 kN の初期軸力が必要だと見積もりました(4 kN のバー力に耐えるための 18.5 kN に、23 µm のなじみによる 12.5 kN の損失を足したもの)。250 N·m で締めたと仮定すると、ねじ部の摩擦(0.1〜0.4)によって軸力は 26〜93 kN と計算され、高摩擦側では要求に届かないので、報告書は完全に締めても安全余裕は保証できないとしています。これは計算で、現場で 250 N·m に締められていたことを確かめたものではありません。トルクは締め方であって、足りるかどうかは荷重と摩擦で決まります。

ばね座金を足したり、緩み止めナットに替えたりすれば解決しますか?

2B ポイントについて報告書が示した結果では効果は小さいものでしたが、測ったのは別々の継手で、すべての緩み止めナットの性能に広げることはできません。試験した同種の単コイルばね座金は 0.65 kN でつぶれ、約 31 kN の初期軸力の要求に比べて戻り止めへの寄与は小さい。右側の鎖錠用バー継手のプリベリングトルク形ナットは、継手が緩んだ後には抵抗が普通のナットと同程度で、ねじ山が変形していました。報告書の勧告は、人の介入に過度に頼らず安全余裕をもつよう継手の設計を改める方向です。

ナットが緩みの判定角まで回っていなければ、軸力は足りていると言えますか?

言えるとは限りません。報告書が解析したこの継手では、3/4 インチのボルトの 250 N·m での計算上の伸びは最大 129 µm で、ナットが約 1/19 回転戻れば軸力はゼロになります。第 164 段落は Network Rail の「緩み」の判定を 1/8〜1/4 回転と要約し、事故後にそれで行った点検では軸力を失った締結部品をすべて見つけられたとは限らないと指摘しています。報告書の勧告 7 は、所要の軸力を得るのに必要なナットの回転を考慮して緩みを定義するよう求めています。

参考資料

このページは RAIB 報告書 20/2008 の v5 全文に基づき、段落番号は報告書に従っています。計算と試験の数値は第 142〜153 段落、第 164〜166 段落と付録 E、保守仕様と現場の対応は第 262〜268、675 段落と付録 I、事故後の一斉点検と締結部品の変更は付録 O と第 677、679 段落によります。角度の換算、差、合計は当サイトの計算で、締付け長さを 2 倍にする例は仮定です。「締結部品の側から持ち帰れる四つのこと」は当サイトの読み方で、報告書の勧告ではありません。

お問い合わせ

繰返し荷重を受け、締付け力で滑りを止める必要がある継手については、お見積りの際に荷重の状況、被締結部品の材料と表面状態、締付け長さ、締付け方法と潤滑条件をお知らせください。その条件に合わせてご提供できる選択肢をご案内します。必要な軸力や、追加の緩み止めが要るかどうかは、設計を担当する技術者が荷重と適用要件に基づいて判断する必要があります。

お見積り依頼

品名と数量をお知らせください。可否、納期、価格をご返信します。

送信するとメールソフトが開き、内容が入力済みになります。

直接メールでも承ります sales@tigerfasteners.com