JIS B 1176 は ISO 4762 と同じではない:規格自身が MOD と書いている

「六角穴付きボルトの JIS は ISO 4762 と同じもの」—— 部品商のページでも検索結果の要約でも、そう書かれているのをよく見ます。
⚠️ 規格を開くと、そこに書いてあるのは MOD です。 およそ 7 分。

JIS B 1176:2014 の第 1 章の注記は、対応国際規格として ISO 4762:2004 と ISO 12474:2010 を挙げ、その後ろに(全体評価:MOD)と書いています。 そして同じ注記が、記号 MOD は ISO/IEC Guide 21-1 にもとづいて 「修正している」ことを示す、と続けています。

⚠️⚠️ これは書き忘れでも横着でもありません。 同じ文書は、自分が引用している規格には IDT を使っています—— JIS B 0143 に対して ISO 225:2010(IDT)、JIS B 0205-2 に対して ISO 261:1998(IDT)。 一枚の紙の上で二つの記号が正確に使い分けられていて、 自分自身に付いているほうが MOD です。

では何が「修正」されているのか

序文が、翻訳した部分と足した部分をはっきり分けて書いています。逐語で写します。

「2004 年に第 4 版として発行された ISO 4762 及び 2010 年に第 1 版として発行された ISO 12474 を基に、対応する部分(形状・寸法、製品仕様、及び製品の呼び方の例)については 対応国際規格を翻訳し、技術的内容を変更することなく編集し、一体化して作成した 日本工業規格であるが、対応国際規格には規定されていない規定項目(用語及び定義、表示)を 日本工業規格として追加している。」

つまり寸法のほうは動いていません。 形状・寸法、製品仕様、製品の呼び方の例は技術的内容を変更することなく訳されています。 MOD になっている理由は、引かれたからではなく足されたからです—— 用語及び定義と、表示。どちらも対応国際規格には規定されていない項目です。

⚠️ ここは実務でそのまま効きます。 寸法だけを見るなら「ISO 4762 と同じ」で困らない場面は多い。 けれど表示(マーキング)の要求は国際規格の側にはなく、JIS の側にしかありません。 「ISO 4762 準拠」と書かれた部品が JIS B 1176 の表示要求も満たしているかどうかは、 そこからは出てきません。

そしてこの規格は、自分の差分を自分で添えている

序文の続きにこうあります。 側線または点線の下線を施してある箇所、附属書 JA、附属書 JB は、 対応国際規格にはない事項である。変更の一覧表にその説明を付けて、附属書 JC に示す。

つまり読み手は、どこが国際規格と違うのかを推測しなくてよい。 本文には線が引いてあり、追加された附属書は名指しされ、 附属書 JC はまるごと「JIS と対応国際規格との対比表」です。

目次に並んでいる附属書(表題のみ)
附属書表題
A(参考)鋼製ボルトの質量
JA(参考)公差域クラス 5g6g の許容限界寸法
JB(参考)強度区分 12.9
JC(参考)JIS と対応国際規格との対比表

⚠️⚠️ この表は目次から取った表題だけです。 私が読めた無料プレビューは第 2 章の途中で止まっているので、 附属書の中身は一行も読んでいません。 ですからこのページは 5g6g の許容限界寸法も、強度区分 12.9 についての記述も、 表示の具体的な要求も書きません。 JA と JB が存在すること、そして参考であることだけが、ここで言えることです。

もう一つ落ちやすいこと:基になった国際規格は二つある

「JIS B 1176 = ISO 4762」という言い方は、細目ねじの側を落とします。 序文が挙げているのは二つです。

  • ISO 4762(2004 年、第 4 版)
  • ISO 12474(2010 年、第 1 版)——メートル細目ねじの六角穴付きボルト

そして序文の言葉では、その二つを一体化して作られています。 適用範囲もそれに対応していて、 部品等級 A、並目は M1.6 から M64、細目は M8×1 から M36×3

ですから細目の側を ISO 4762 に照らして探しても見つかりません。 その半分は別の文書から来ています。

第 1 章の最後の一文:寸法と製品仕様の外は、ここには無い

逐語で写します。

「この規格で規定する寸法及び製品仕様以外の要求がある場合には、受渡当事者間の協定によって、 例えば JIS B 0205-2、JIS B 0209-2、JIS B 1009、JIS B 1021、JIS B 1051、JIS B 1054-1 及び JIS B 1057 から選択する。」

製品規格が自分の縁を宣言している一文です。 寸法と製品仕様のほかに要るものは——ねじの許容限界、強度区分、表面処理といったもの—— この規格の中にはなく、当事者間で決めて、別の規格から選ぶことになります。

当サイトは同じ形をくり返し見てきました。 規格が終わるところで扱ったのがまさにこの型です。 ⚠️ そしてこれは、図面に「JIS B 1176」とだけ書いても、 材質も強度区分も表面処理も指定されていない、ということでもあります。

この規格そのものの履歴

  • 制定 昭和 35 年 3 月 1 日(1960 年)
  • 改正 平成 26 年 4 月 21 日(2014 年)、官報公示も同日
  • まえがき:これによって JIS B 1176:2006 は改正され、この規格に置き換えられた
  • 原案作成者:日本ねじ研究協会(JFRI)一般財団法人日本規格協会(JSA)
  • 審議:日本工業標準調査会 標準部会、機械要素技術専門委員会

⚠️ 版について一つ確認できていないことがあります。 私が読んだのは日本規格協会の 2014 年版のプレビューです。 第三者のページに JIS B 1176:2015 と書かれているものがあり、 それが誤記なのか別の版が存在するのか、このページでは確認できませんでした。 図面に版年を書く必要がある場合は、日本規格協会で現行版を確かめてください。

持ち帰れること

  • 「同一」と書いてある説明を見たら、規格の第 1 章の注記を見てください。IDT か MOD かはそこに書いてあります
  • MOD でも寸法が違うとは限りません。B 1176 の場合、修正は追加であって変更ではない、と序文が言っています
  • 追加されたものの側にこそ実務の差が出ます——ここでは用語及び定義と表示
  • ⚠️ この結論を他の JIS に広げないでください。このページが読んだのは B 1176 一つだけで、対応の程度は規格ごとに違います

⚠️ そしてこの結論は規格ごとに違います。六角ボルトの JIS では、ISO によらない六角ボルトが「規定」の附属書として入っています——一つの規格の中に二つの族

三つ目:書きぶりが違い、そして記号には手が届かない

取得の経路が再現できる以上、三つ目の規格をこの二つの隣に置く値打ちがあります。 JIS B 1051:2014 は ISO 898-1 の日本側—— 炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の強度区分で、当サイトがいちばん多く引いている規格でもあります。

その序文は、ほかの二つのどちらとも違う書きぶりです。そしてその違いは修辞ではありません。

三つの序文が「日本側が何をしたか」をどう述べているか
規格序文が述べている追加・変更
JIS B 1176技術的内容を変更することなく翻訳、ただし対応国際規格に規定されていない規定項目を追加——用語及び定義、表示
JIS B 1180技術的内容を変更することなく翻訳、また ISO によらない六角ボルトの特性を附属書 JA に示す(規定)
JIS B 1051技術的内容及び構成を変更することなく作成;対応国際規格にないものとして示されるのは点線の下線を施した参考事項だけ

前の二つが足しているのは規定で、三つ目が足しているのは参考です。 B 1051 の序文は基礎も正確に述べています——2013 年に第 5 版として発行された ISO 898-1—— そして点線の下線が示すのは対応国際規格にない参考事項であって、 それへの変更ではない、と。

⚠️⚠️ 言えないのは記号のほうです。 B 1176 と B 1180 は全体評価が第 1 章の注記にあり、どちらも MOD でした。 B 1051 の無料プレビューは第 1 章の途中で止まり、その種の注記より手前なので、 IDT と宣言しているのか MOD なのかを見ていません。

ですからこのページは、B 1051 が三つのうちいちばん近い、とは言えません。 言えるのは、その序文が「されたことは少ない」と主張している、ということだけ—— そして決着をつける一文は、読める範囲のもう一枚先にあります。 序文の書きぶりの違いは証拠であって、宣言そのものではありません。

参考資料と、どこまで読んだか

  • JIS B 1176:2014《六角穴付きボルト》Hexagon socket head cap screws。 出典は日本規格協会が公開しているプレビュー PDFwebdesk.jsa.or.jp の preview パス)。 ⚠️ 転載サイトは使っていません。
  • ⚠️⚠️ 読んだ範囲:表紙、まえがき、目次、序文、第 1 章(適用範囲と注記)、 第 2 章の途中まで。プレビューは第 2 章の引用規格リストの途中で切れています。 第 3 章(用語及び定義)、第 4 章(種類)、第 5 章(形状・寸法、製品仕様、 及び製品の呼び方の例)、第 6 章(表示)、附属書 A・JA・JB・JC、解説は読んでいません。
  • ⚠️ ISO 4762 と ISO 12474 の原文はこのページでは読んでいません。 それらについて書いたことは、すべて JIS の序文がそう述べているという形でのみ書いています。
  • ⚠️ 他の JIS と ISO の対応関係については何も主張していません。 読んだのは一つだけです。

この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。

よくある質問

JIS B 1176 は ISO 4762 と同じですか。

同一ではありません。JIS B 1176:2014 の第 1 章の注記は、対応国際規格として ISO 4762:2004 と ISO 12474:2010 を挙げ、(全体評価:MOD)と記しています。そして MOD は ISO/IEC Guide 21-1 にもとづいて「修正している」ことを示す、と同じ注記が続けています。同じ文書が、引用している JIS B 0143(ISO 225:2010)と JIS B 0205-2(ISO 261:1998)には IDT を使っているので、記号は正確に使い分けられています。

MOD ということは寸法が違うのですか。

この規格については違いません。序文は、対応する部分(形状・寸法、製品仕様、及び製品の呼び方の例)を技術的内容を変更することなく翻訳した、と述べています。MOD になっているのは引かれたからではなく足されたからで、足されたのは対応国際規格には規定されていない項目、すなわち用語及び定義と表示です。⚠️ ただしこれは B 1176 についての話で、他の JIS に広げられる結論ではありません。

どこが国際規格と違うのか、どうすれば分かりますか。

規格自身が示しています。序文によれば、側線または点線の下線を施してある箇所、附属書 JA、附属書 JB が対応国際規格にはない事項で、その一覧と説明は附属書 JC(JIS と対応国際規格との対比表)にあります。⚠️ ただし私が読めたプレビューは第 2 章の途中で止まっているため、附属書の中身は読んでいません。

JIS B 1176 の適用範囲はどこまでですか。

部品等級 A で、並目ねじは M1.6 から M64 まで、細目ねじは M8×1 から M36×3 までです。細目の側が入っているのは、この規格が ISO 4762 だけでなく ISO 12474(メートル細目ねじの六角穴付きボルト)とも一体化して作られているからで、「JIS B 1176 = ISO 4762」という言い方はその半分を落とします。

図面に JIS B 1176 とだけ書けば足りますか。

足りません。第 1 章の最後にこうあります。この規格で規定する寸法及び製品仕様以外の要求がある場合には、受渡当事者間の協定によって、例えば JIS B 0205-2、JIS B 0209-2、JIS B 1009、JIS B 1021、JIS B 1051、JIS B 1054-1 及び JIS B 1057 から選択する。つまり材質、強度区分、表面処理といったものはこの規格の中にはなく、当事者間で決めて別の規格から選ぶことになります。

お問い合わせ

図面が JIS で書かれている場合は、そのまま JIS の番号でお送りください。 版年が分かればそれも—— 対応の程度(IDT か MOD か)は規格ごとに違うので、 こちらで ISO 側に読み替えるときに効きます。 寸法と製品仕様の外にある項目(材質、強度区分、表面処理、表示)は 別に書いていただく必要があります。規格の側がそう言っているからです。

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