最小発注数量がその数字になる理由

よく似た二枚の図面を出して見積を取りました。 片方の MOQ は三万、もう片方は三十万。どちらも M4、どちらも十字穴なべ頭、どちらも亜鉛めっきです。
営業の言い値に見えます。⚠️ そして実際、商業的な成分はあります。 受注の事務コスト、段取りの機会費用、在庫リスク、目標粗利。どれも数字に入りえます。 ただしねじの世界で二つの数字を一桁ひらかせるのは、たいてい工程のほうです。 あの二枚の図面は、工程の違う駅でそれぞれ「特別」なのです。

このページはその算術の話です。分かってしまえば、できることが「呑む」か「値切る」かだけではなくなります—— どの仕様を変えれば数字が実際に下がるのかが見えます。

一つの数字の姿で現れるので、交渉できそうに見えます

見積書に最低発注数量 5 万本と書いてある。一行、一つの数字、計算の付記なし。 その紙の上のほかの項目、つまり単価、型費、納期はどれも、言えば少し動きます。 だからこれも動くだろうと考えるのは筋が通っています。

購買はそこを押します。数字を押すのがその仕事だからで、実際に動くこともあります。 まったく動かないとき、いちばんよく出る結論は「ここは受ける気がない」です。

では下げてもらう。そしてそこには、下げられるものが無い

ねじは線材から梱包まで、いくつもの駅を通ります。 どの駅にも「一度に最低これだけ作らないと合わない」という一回分があり、 しかもその一回分の理由は、駅ごとに互いに無関係です。

各工程の一回分を縛っているもの
工程一回分を決めているものそれがあなたの隘路になるとき
線材一巻の重さ指定した材質か線径が常備品でない
成形(圧造)型替えと段取りの時間カスタムならほぼ毎回
転造転造ダイスの交換と調整ねじ形状か寸法が定番でない
熱処理連続炉の最低稼働量、またはバッチ炉の一炉熱処理が要り、量が一炉ないし条件替えを支えられない
表面処理一バレル/一治具の装入量色やめっき系が常時流れているものでない
検査と書類ミルシートは追跡可能な検査単位に紐づき、抜取りはロット単位量が小さいと固定費の比率が見られたものでなくなる

あなたの MOQ を押し上げているのは、おもに この駅のうち「その部品が専用の扱いを必要とする」一つです。 全部の合計ではありませんし、平均でもありません。

⚠️ ただし単純に最大値を取っているのでもありません。 経済的な一回分は、段取りの固定費と在庫を抱える保有費が一緒に決めるもので、 そこへ供給者自身の生産計画、与信、粗利の考えが乗ります。 ですからこのページが説明できるのは、その数字がなぜその桁に落ちるのかであって、 ちょうどよく算出できるという主張ではありません。

よく似た二枚の図面が十倍ひらく理由は、しばしば単純です。 片方は材質を変え、もう片方は長さだけを変えたのです。

なぜ「材質を変える」は「長さを変える」よりずっと高いのか

いちばんよく踏み、いちばん避けやすい地雷なので、数字を開いておきます。

線材は巻で買い、巻で工場に入ります。 指定した材質と線径が常備なら、あなたの注文は既にある巻から一部を取るだけで、 残りはほかの注文が分け合います。 けれど社内で流れていない材質を指定すると、その一巻はあなたのために開くことになります。 そして一巻から取れる本数は、必要な数をはるかに超えます。

⚠️ 既にある巻から分けられるかどうかも、いつでもそうとは限りません。 溶鋼番号の追跡、客先指定の調達先、残りの線長、線替えの手間。どれも効きます。 だからこれは訊く項目で、仮定する項目ではありません。

一巻から何本取れるかは、自分でも概算できます。鋼の密度はおよそ 7,85 g/cm³。ねじを「軸の円柱+頭の円柱」と見て粗く積もると、 M4×10 でおよそ 1,8 g、M5×12 でおよそ 3,3 g、M6×16 でおよそ 6,0 g。 ですから仮に一巻を 1 000 kg とすれば、M4×10 で五十数万本、 M6×16 で十六万本ほどになります。

⚠️⚠️ 1 000 kg は計算しやすいだけの例であって、常備の巻重ではありません。 冷間圧造用線材の梱包重量は公開仕様でも百数十 kg から二千 kg 超まで幅があります。 そしてこれは粗い概算で、実際の頭部形状、ねじ部の体積、切り落としと試打ちの損失を無視しています。 見積の根拠には使えません。見えればよいのは一点だけ。 「あなたのために一巻開く」と「あなたが必要な数」のあいだには、一桁から二桁の差があるということです。

長さを変えるのはまったく別です。長さが変わっても線材は変わらず、 型を一組替えて機械を一度調整するだけ。 それは時間の費用であって材料の費用ではありません。 そして時間の費用は「多めに作る」で薄められますが、材料の費用はそうなりません。 残りの九十万本ぶんの線材は、あなたが十万本余分に発注しても消えません。

ですから最初の実用的な結論はこうです。 値段より先に「この材質は御社で常時流れているものですか」と訊いてください。 この答えのほうが、値切るよりずっと効きます。

めっきバレルは、もう一つのよくある、見えない下限です

表面処理はふつうロットごとにバレルへ入れるか治具に掛けます。バレルには合理的な装入量があり、 少なすぎるのは無駄というだけでなく、めっきの均一さにも効きます。 部品はバレルのなかで互いに転がって接触し、そこで導通しているからです。

ですから「5 000 本だけ、亜鉛めっきするだけ」は、工程の上では小さな話ではありません。 その色やめっき系が社内で常時流れているものなら、ほかの注文と同じ槽に相乗りできる可能性はあります。 ⚠️ ただし保証ではありません。素地、部品形状、膜厚、不動態化、追跡、水素除去の要求、 どれもが相乗りを不可能にしえます。 常時流れているものでなければ、そのバレルはあなたのために一度だけ回ることになります。

⚠️ これはよくある現象も説明します。同じねじなのに、 素色の亜鉛めっきなら安くて話も早いのに、特定の色やめっき系を指定したとたん MOQ が現れる。 相乗りできないのは理由の一つです。 けれど特殊なめっきそのものが本当に高いこともあります。 薬液、前後処理、焼成、膜厚の管理、排水処理、検査の要求がどれも違いえます。 二つは同時に成り立つので、分けて訊く値打ちがあります。 (めっき自体の選び方は別のページで。ここでは一回分への影響だけ。)

型費と MOQ は別のもので、分けて話すほうが有利です

この二つを混ぜてしまうと、交渉の力点を外します。

  • 型費は一回きりに近いものです。作ってしまえばその型は残り、次のロットで使い回せます。 ⚠️ けれど型は消耗品であって永久の資産ではありません。 パンチ、ダイス、転造ダイスはどれも摩耗しますし、割れもします。 それに型が誰のものか、どれだけ保管されるのか、設計変更で作り直しになるのかは、 見積の条件にどう書いてあるか次第です
  • MOQ はロットごとに毎回向き合うものです。型は残っていても、 段取りの時間は残り、めっきバレルは残り、線材の巻重も残ります

混ぜたときのいちばん典型的な誤解はこれです。 「初回が高いのは仕方ない、二回目は安くなるだろう」。 二回目はたしかに型費が落ちることが多い(その型がまだ使えて、まだ残っていればですが)、 けれど MOQ はそれで減りません。 年間使用量がもともと MOQ を下回っているなら、二回目の問題は一回目と同じ大きさです。

ですから見積の段階でこの二つを別々に出してもらうのは、押し通す値打ちがあります。 見積依頼に何を書くかと同じ規律です。 混ざっているものを分ければ、それぞれを検証できるようになります。

では試作はどうするのか

「設計検証に 1 000 本だけ欲しい」はまったく筋の通った要求で、 そしてまったく筋の通った拒否にぶつかります。 理由は工場が小口を嫌っているからではなく、 その 1 000 本が量産とまったく同じラインを通るからです。 段取りの時間は短くなりませんし、バレルは小さくなりません。

効くやり方は二つの方向です。

  • まず仕様の近い常備品で概念を検証する。確かめたいのが「付くか、締まるか、緩まないか」なら、常備品でたいてい答えが出ます。カスタムは設計が固まってからに回す
  • 試作の単価が高いことは受け入れ、そのうえで「同じライン」で作られたものを要求する。違う工程で作られた試作品は、量産がどうなるかを証明しません。サンプルが届いたあとが一篇まるごとその話です

⚠️ 気をつけるべきは三つ目です。試作数量を下げるために、違う工程を使う別の会社へ移すこと。 そうして得た試作品でも、組付け、干渉、外形、操作性は検証できます。 これらはもともと工程にあまり依存しません。 けれど量産工程そのものが安定するかどうかは検証できません。 ですから設計が固まったあとに、量産工程で作ったサンプルをもう一度取る必要が残ります。

高すぎる MOQ を受け取ったとき、何を訊くか

「もう少し減らせませんか」は訊く値打ちがありますが、たいてい訊くのが早すぎます。 多くの MOQ は「この単価での最低量」であって、物理的に作れないという意味ではありません。 段取り費の加算、単価の引き上げ、年間の引取り確約と分割納入、既存の生産計画への相乗り。 こうした選択肢は、訊いてはじめて現れます。 けれどもっと有用な最初の一問は、その数字がどの駅に決められたのかです。 それによって、上のどの変通が効くかが決まります。

  • 「この MOQ を決めているのは線材ですか、段取りですか、表面処理ですか」。三つの答えは三つのまったく違う解法に対応します
  • 「材質を御社の常備の規格に変えたら、数字は変わりますか」。変わるなら、てこを見つけたということです
  • 「めっきを常時流れているものに変えたら、数字は変わりますか」。同じく
  • 「この駅のうち、外注はどれですか」。外注の一回分は動かせませんが、その工程を自社に持つ会社なら動くことがあります
  • 「型費と MOQ は分けて見積もってください」。質問ではなく、要求です
  • 「段取り費の一回加算、あるいは単価の引き上げを受け入れたら、最低量はどこまで下がりますか」。「もう少し減らせませんか」は本来この形で訊くものです

この問いに共通するのは、 恣意的に見える一つの数字を、それぞれ点検できる理由の列に戻していることです。 そしてそれはこの一連のページがずっとやっていることでもあります。 ねじを指定する順序から始めて、 慣習に見えるものの下には、訊ける「なぜ」が必ずあります。

この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。

よくある質問

よく似た二本のねじで、なぜ MOQ がこれほど違うのですか。

MOQ を決めているのは「その部品がどの工程で特別なのか」だからです。線材は巻で買い、成形と転造は段取りを要し、熱処理は一炉、めっきは一バレル。専用の扱いが要る駅、その一回分があなたの MOQ になります。長さを変えるのはふつう段取りだけに触りますが、材質を変えると一巻まるごとあなたのために開くことになりえます。

MOQ は営業が言い値で出しているのですか。

交渉できる幅は多くの人が思うより狭いです。めっきバレルは頼んでも小さくなりません。⚠️ ただし商業的な成分がないという意味でもありません。受注の事務コスト、段取りの機会費用、在庫リスク、目標粗利は数字に入りえます。効く訊き方は数量を値切ることではなく、「どの仕様が MOQ を押し上げているのか」を訊き、その仕様が本当に必要かを点検することです。

型費と MOQ は同じものですか。

違います。型費は一回きりに近く、使い回せます。⚠️ ただし型は消耗品で、パンチもダイスも転造ダイスも摩耗し、割れます。MOQ のほうはロットごとに毎回あります。混ぜて話すと「二回目は安くなる」と思い込みやすいのですが、二回目に落ちるのは型費で、MOQ は一本も減りません。

試作に 1 000 本だけ欲しいのに、なぜ 5 万本と言われるのですか。

その 1 000 本が量産と同じラインを通るからです。5 万はたいてい「小口を受けたくない」ではなく、「これを下回ると、割り付けた単価では発注していただけない」という意味です。このときに訊くべきは、概念の検証に使える常備品があるかどうかです。

MOQ が高いのは、その会社が小口を受けたくないということですか。

数字そのものからは分かりません。工程を一通り自社に持つ会社と、めっきを外注する会社とでは、同じ部品でも MOQ が違います。訊く値打ちがあるのは「この数字はどの駅が決めたのか」です。

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MOQ が合わないときは、どの仕様なら変えられるかを一緒にお知らせください。 材質、めっき、長さ。どれが動かせるかで、こちらから出せる答えが変わります。 M6 以下は成形、転造、検査を自社内で行っているので、 その三つの駅については、外注先の回答を待たずにどの駅が効いているかをお答えできます。

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